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鋼橋級に強固な契約書の作成/法律相談室

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第73回 日豪プレス法律相談室
鋼橋級に強固な契約書の作成

 拘束力の強い契約書には、3つの重要事項が含まれています。シドニーのハーバー・ブリッジ(2000人が建設に携わり、8年の工期を経て1932年に完成した世界最大級のアーチ橋)建設の際に交わされた契約書を例に挙げ、それらを見ていきましょう。

 1924年3月24日、建設業者Dorman Long and Coの代表者とニュー・サウス・ウェールズ州との間で、下記重要事項3点を含む契約書が交わされ、橋の建設契約が結ばれました。

  1. プロジェクトの説明業務範囲の正確な説明。後になって、ある業務が「契約に含まれる/含まれない」かで、当事者間でもめないようにするため、極めて重要。
  2. 建設業者による言明建設業者は契約内容に沿って業務を遂行し、もし欠陥が見つかれば同意した金額で修理する。
  3. 雇用主による言明雇用主は、契約業務が完了した際に、建設業者に同意した金額を支払うことを約束する。

 ブリッジ建設中の30年に、橋の南端と北端2つのアーチが中央で合い、1つになったのと同じように、こうした法的拘束力のある契約書が当事者たちをつないでいました。

 契約価格は421万7,721ポンドで、現在の価値でおよそ1億1,250万豪ドルになります。

 実際には全ての条件の明示のない契約書もしばしば見受けられます。取引きの有効性にとって必要な条件は、当事者の行動からその意思が分かれば(契約書に明記されていない、いわば黙示意思)、契約に含まれると見なされます。

 では、契約書に署名がなかった場合はどうでしょう? ここで、オーストラリアの契約法に関する有名な判例「Waltons Stores v Maher(1998年/豪連邦裁判所)」を紹介します。Maherは、ナウラ(Nowra)に保有するオフィス・ビルにWaltons Storesがテナントとして入るという同意があったものと思い、ビルの再建を開始しましたが、Waltonsとのそうした契約に関し、署名が入った契約書を保持していませんでした(その後、工事は途中でストップ)。

 Waltonsは、契約書は形式的なものに過ぎないとMaherに信じさせていたことから、結果的にWaltonsにはMaherに対する賠償義務が発生しました。この有名な裁判によって、自己訴因としての「promissory estoppel(約束的禁反言)」の概念がオーストラリアで作られました。

 次回コラムではこの「約束的禁反言」という法律用語について詳しくお話したいと思います。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。

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