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たった一つの宝物/福島先生の人生日々勉強

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福島先生の人生日々勉強
たった一つの宝物

 昔むかし、ある所に悪魔が現れてこう言いました。

「俺様は、お前たちの持ち物を全て奪い取りに来た。だが、悪魔にも情けというものがある。お前たちに明朝までの猶予を与える。夜明けまでに残しておいて欲しいものを一つだけ書いておけ。それ以外のものは一切、俺様が奪い去るからな」言い残して、悪魔は姿を消しました。さあ、人びとは慌てます。

 悪魔はたった一つしか見逃してくれません。「私はお金」「家だわ」「名誉は捨てられない」「この宝石だけは特別」と、皆それぞれが大切にしている宝物を一つだけ厳選して書き置きました。

 翌朝。たった一人を残して誰もいなくなっていました。

 そのたった一人だけが、「命」と書いていたのです。「自分は何のために生まれてきたのだろう」と人は悩みます。自分の存在理由を日常の事象に求めて落ち込みます。一方で、日常の中に幸せを見い出すのも人間です。

 確かに、人生の浮き沈みを含め命以外の一切は人生の彩りと言えるかもしれません。しかし、その人生の彩りは、命あってのものです。手持ちの色に納得がいかないからと誰かを攻撃したり、ましてや自らの命を疎かに考えたりするということは、命の有り難みを見失うほどに心の性質が粗暴に至っているということです。「命」は無意識のうちに与えられたものであるからこそ時にぞんざいに扱われ、命を犠牲にしても手に入れたい何か、といった欲も生まれるのでしょう。しかし、自分にとってそれがいかに大切なものであろうと、死ぬ時にはこの世に置いていかねばなりません。

 失敗して何かを失ったとしても、死と比べれば治せる傷に過ぎません。苦しい目に遭っているなら逃げる方法を探しましょう。自分の意思で辞められることなら辞めたっていいと思います。苦しくても頑張る方が好きだったらそうすればいいし、努力の先にある何かを極めたいならぜひ突き進んでください。

 大事なことは、どんな道を選んでも「命」だけは持っておくということです。命は本当に儚(はかな)くて、あっという間に失われてしまいます。自分に与えられたたった一つの命が、今この瞬間に存在するということは、何物にも代えがたい奇跡なのです。

このコラムの著者

教育専門家 福島 摂子

教育専門家 福島 摂子

教育相談及び、海外帰国子女指導を主に手掛ける。1992年に来豪。社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命とした私塾『福島塾』を開き、シドニーを中心に指導を行う。2005年より拠点を日本へ移し、広く国内外の教育指導を行い、オーストラリア在住者への情報提供やカウンセリング指導も継続中。

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