日豪フットボール新時代 第118回
蒐集家(しゅうしゅうか)
フットボール狂にもいろいろな姿があるが今回、登場願うのは、フットボールを狂おしく愛するユニフォーム蒐集家の話。
関裕介(37)は、妻と愛息と2,000枚を軽く超えるコレクションと共にブリスベン郊外に暮らす。独自のルートを駆使して世界中から集めた長年の努力の賜物は多くの珍品を含む。南スーダンや東ティモールなどマイナー国の代表ユニフォームに加えて、FIFA未加盟のザンジバル代表や中国に侵略されているチベット代表など、一体どこで入手するのかという代物がそろう。更には、その多くが着用済み、またはサイン入りだったりするから驚きだ。詳しくは企業秘密と笑うが、同好の士によるネットワークは常人には計り知れない。
では、小学校で全国ベスト4、高校は強豪ひしめく大阪でも古豪として知られた北陽高校でプレーするなど、いわゆるサッカー小僧だった彼がなぜにユニフォーム蒐集にハマったのか。
そもそものきっかけは、シングル・マザー家庭で育った少年時代。楽ではない暮らしの中で必要最低限しか買い与えられなかった用具への愛着は強かった。その中でもユニフォームに抱いていた格別な思いは、いつしか偏愛に変わっていった。お年玉で買ったお気に入りのパリ・サンジェルマンのシャツは部屋に飾り、飽きずに眺めた。朝起きて泥棒に入られてないかを確認、更には、そのシャツの存在自体が幻でないかも確認したというから、どれだけ大事にしていたかが分かるというものだ。
そんな彼の蒐集癖を妻は「コレクションを全部売って家を買おう」と冗談とも本気とも取れない態度を見せながらも理解を示す。9歳の息子も、幼いころから2代目としての英才教育を受け、確実にフットボール狂の道を歩んでいる。
元々、物を大切にする気持ちから始まったコレクション。本人にとっては、その1枚1枚が大事な宝物。そして、彼は今日も宝の山を眺めながら愉悦に浸る。
解説者
植松久隆(タカ植松)
ライター、コラムニスト。日豪フットボール事情のニッチを守り続けて早10余年。雌伏の時を経て、今、新創刊の日豪プレスにお呼びが掛かり喜ぶアラフィフ。「『うえまつのひとり言』が新しい誌面ではないので、今後はこのスペースで『うえまつの呟き』を入れていくのでお付き合いあれ」