出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~
其の四拾弐
ノルウェーのイベントで日本食を披露
2002年、ノルウェーのスタヴァンゲルで毎年7月に開催されている食の祭典「Gladmat」に招待されました。「Gladmat」への機会を作ってくれたのが、スタヴァンゲル出身の青年、ナドルフ君。彼はマンリーにあるインターナショナル・ツーリズム・ カレッジでホスピタリティ・インダストリーの勉強をしていた際、私のシドニー・シーフード・スクールのクラスに参加したのがきっかけで、はるばるノルウェーから連絡を頂きました。
7月のノルウェーは日中は暖かく、夏季の白夜は、夜中近くになるまで日が暮れず、人々は短い夏の外出を大いに楽しんでいました。早速、ナドルフ君とスタバンゲルでの予定を確認しながら、石油博物館の近くにある北海に面した「Bolgen & Moi」という地元で人気のレストランに向かい、そこで私の日本料理ディナーの、打ち合わせを済ませた後、スタバンゲルの観光に連れて行ってくれました。
スタバンゲルは、北海石油のおかげで街は栄え、美しいフィヨルドの入り口ということもあり首都オスロや、作曲家エドヴァルド・グリーグの生誕の地ベルゲンなどと並ぶ観光地としても知られています。旧市街地区には、白を基調にした鮮やかな建物が並び、港近くの中心街にはカラフルな色どりの木造家屋が立ち並んでいます。石畳が敷かれた道の両側にカフェやバーが立ち並ぶ、美しい街並みが印象的でした。
港へと向かう坂を少し上がった商店街の通りの角にあるこじんまりとした2階建ての本屋さんでは、私の『Sashimi』『Sushi Modern』の本のサイン会を企画してくれました。所狭しと本が立ち並ぶ、とてもかわいい店内で、地元の人と食べ物や日本食の話をしながら過ごした時間は格別でした。
「Gladmat」は、スタヴァンゲルの4日間にわたる夏の食の祭典で、野外マーケットが開設されます。マーケットにはチーズなどの加工食品や近郊で採れた夏野菜や果物などが並びます。特にベリー類は種類も多く、全て試したかったですがそういうわけにもいかないので、珍しいベリーを購入してその場で食しました。最近はシドニーでも手軽に購入できるベリーが増え、うれしく思います。
さて、私はここで「すし」と「刺し身」のデモと試食を行いました。魚を刺し身でしょうゆと共に食べるというのは、当時のノルウェーではまだ珍しかったようです。ノルウェーは魚の種類も多く、特にサーモンは安定して調達できます。どの魚も塩漬けにしたり、マリネード、スモークされたものなども多く、絶品でした。刺し身用の魚は、Bolgen&Moiのシェフやナドルフ君らに鮮度を保つよう協力してもらい、幸いにも好評を得ました。
日本食の食材の調達は、スタヴァンゲルではまだ難しく、ドイツのデュッセルドルフ・キッコーマンに協力頂き、しょうゆなどの調味料の準備し、米などはオスロ―から取り寄せてくれました。
「Gladmat」終了後、主催者側からノルウェー原産の蒸留酒アクアビット(Aquavit、「命の水」の意)を頂きました。このアクアビット、アルコール度数が40〜50度ととても強く、さすがバイキングの国だと思いました。やはり長い冬を越すための生活の知恵でしょうか。
スタヴァンゲルにある「The Culinary Institute Of Norway」も訪問させて頂きました。1998年、オスロにある教育機関から、新たな料理学校として開設され、校内には、最新の調理器具を備えた調理室がありました。また、冬の日照時間が少ない北欧らしい、野菜の室内での水耕栽培などの研究もされていました
このコラムの著者
出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使