オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第25回 ポール・セザンヌ
(Paul Cézanne)
「Hillside in Provence(1890–92)」
「近代絵画の父」と広く呼ばれているポール・セザンヌは、印象派の偉大な画家の1人であり、その作品とアイデアは、多くの20世紀の芸術家や芸術運動、特にキュービズムの美的発展に影響を与えた。
彼の初期作品は写実主義のクールベに影響されているが、後にモネやルノワールと親交を持つことでフランスの印象派画家として活動した。1880年代から印象派のグループを離れ、80年半ばまで住んだ南フランスで、シンプルながらも色彩とボリューム感のある独自の絵画様式を探求した。彼は地元の砂岩である鮮やかな黄土色の顔料を使用し、当時の作品に多いロマン主義的な暗い色調よりも明るい色調(ブラウン・オーカー、アイボリー・ブラック、リード・ホワイト、ビリジアン、イエロー・オーカー、エメラルド・グリーン、朱色、ウルトラマリン)で有名となった。また、彼は肖像画を含め、作品制作に時間を掛けることでも知られている。
セザンヌの有名な油彩画「プロヴァンスの丘の中腹(1890-92)」は色調を微妙に変化させながら筆致を並置することで風景を幾何学的な形に縮小し秩序を生み出している。この技法は後に「構築的筆致」と名付けられた。絵画の風景はセザンヌの生まれ故郷、プロヴァンスにあるが、詳しい場所は特定されていない。
「プロヴァンスの丘の中腹(1890-92)」は現在、キャンベラのオーストラリア国立美術館で行われている「ボッティチェッリからファン・ゴッホ──ロンドン・ナショナル・ギャラリーの傑作より」で展示されている。エキシビションでは500年にわたる西ヨーロッパの美術史を7章(イタリア・ルネサンス絵画、オランダ絵画の黄金時代、ヴァン・ダイクとイギリス肖像画、グランド・ツアー、スペイン絵画の発見、風景画とピクチャレスク、イギリスにおけるフランス近代美術受容)で構成。ロンドン・ナショナル・ギャラリー192年の歴史で英国外を旅した史上最高の所蔵絵画、全61点が並ぶ。セザンヌの絵画は、ゴッホの「ひまわり」、モネの「睡蓮」、ルノワール、ゴーギャンなどと並び、第7章に展示されている。
展示会は、2021年3月15日から6月14日まで。美術館でチケットを購入することも可能だが、完売する場合もあるため事前購入がお薦め。
NGA(National Gallery of Australia)
Web: www.nga.gov.au
Instagram: nationalgalleryaus
このコラムの著者
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。グリフィス大学で美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、サウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Instagram: @lucymilesfineart
■Web: www.lucymilesfineart.org
■Email: info@lucymilesfineart.org