花のある生活 第36回
─ flower in life ─
いきな粋(すい)なな、ごあいさつ
「粋(いき)ですね」と、ちょっとしゃれた感じに見える時に使う言葉がありますよね。京都に行くと粋(いき)ですねとも言いますが、同じ漢字を当てて「粋(すい)ななぁ」と言われることがあります。似たような意味ですが少し違いがあるようで、粋(すい)とは美意識の一つで物事を純粋に突き詰めていくことでたどり着く、完成されたものとして使われているようです。
京都の春の風物詩、都をどりは昨年に続き今年も開催中止でした。歌舞練場で練習を重ねた芸舞妓さん方のお披露目がないのは寂しいことでした。チントンシャンと歯切れの良い三味線のリズムと垂れた丸帯が優美に映え、踊りを舞われる姿は粋(いき)な伝統美そのものです。
たまたまある時、祇園町で帰り際の舞妓さん方と出くわしました。隅の席に座っていた私にも「おおきにどす」と皆さんがお辞儀をして出て行かれました。まるで私が自分の甲斐性で招いたかのような優越感が走り、気分が高揚したことを覚えています。舞妓さん方はいつまたどこでお世話になるか分からない人にも礼儀としてごあいさつをされているのだそう。その「おおきに」の言葉は私の心に豊かな波紋を広げてくれました。
当たり前だと思っていることは実はそうではなくて、知らず知らず周りに助けて頂いていることがあるのではないかと教えて頂きました。周囲から配慮して頂いていることや育てて頂いていることを短い言葉「おおきに」に託して、1歩控えて物事を捉える前向きな姿勢が、この上なく粋(すい)なごあいさつに感じられます。
今月のいけばなは重量感のある花器を使用しています。正面に向いてドンと2本足で立たせず、一足一歩下がって控えめに置いてありますが、存在感のある作品に仕上げています。
このコラムの著者
Yoshimi
いけばな講師。幼少期より草月流を学ぶ。シンガポールでの華道活動を経て、現在はシドニーでいけばな文化芸術の発展に務める。令和元年には世界遺産オペラ・ハウスで日本伝統芸能祭に出演。華道教室を主宰。オンラインレッスン開催中。
Web: 7elements.me