オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第26回 Hilma af Klint
(ヒルマ・アフ・クリント)
「Group IX / UW, The Dove No.2 (1915) 」
ヒルマ・アフ・クリントは、可視できないものを表現する抽象画の先駆者であり、神秘主義者として知られる女性画家だ。1882年から87年にかけてストックホルムのスウェーデン王立美術院で学び、写実主義や伝統的な肖像画、自然主義的な風景画などを描き、展示を行っていた。
彼女は、20世紀初頭の数十年で見事な作品を制作し、時代を先取りし芸術を生み出す存在となった。オカルトに触発され、死者と話す交霊会への参加活動も行っていたという。1870年代後半、ラジオや電話の開発に繋がったX線や電磁波の科学的発見に影響を受け、目に見えない現象に興味を持ったことから、彼女の作風が変わり始めた。また、同じ思想を持ち、活動する4人の女性芸術家と共に、「de Fem(5人)」というグループを結成。紙の上でペンを意識的に動かすことなく、言葉を綴る自動記述の練習を開始した。
多くの芸術家は、人生には精神的な側面があると信じ、目に見えるものを超えた状況や背景を視覚化することを目的としている。ヒルマ・アフ・クリントは、作品を描く際、自身が高次元の意識レベルからメッセージを受け取っていると信じ、スピリチュアリズムや神智学に加え、人智学の影響を受けていた。
「Group IX / UW, The Dove No.2 」は、彼女が描く油彩画で、14枚にわたる「鳩シリーズ」の1つであり、精神・平和・団結を象徴する鳩など、キリスト教のイメージが描かれている。西洋文化において、赤は危険・エネルギー・情熱・行動・野心・決意を表し、黒は謎・未知・秘密・力・支配などを意味する。それらは、友好的ではないと見なされ、死や喪を示唆する場合もある。中心に大きく描かれている境界線は、他の鳩シリーズの作品にも多く見られ、黄や青、ピンク、白のカラー・パレットが繰り返し発生する。彼女の作品は、内面の世界観により、おそらく鑑賞者が理解することが不可能な象徴性とモチーフが描かれている点が特徴だ。
同作品は、2021年6月12日〜9月19日までニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で開催される「ヒルマ・アフ・クリント 秘密の絵画(Hilmaaf Klint The Secret Paintings)」で展示される。彼女の作品が主要として並ぶ展示会は、オセアニア・アジア地域で初となるため、ぜひ、足を運んでみて欲しい。
Art Gallery NSW
Website: www.artgallery.nsw.gov.au
Instagram: artgalleryofnsw
このコラムの著者
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。グリフィス大学で美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、サウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Instagram: @lucymilesfineart
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