日豪フットボール新時代 第119回
個性派
初めてその男と会ってから1年が過ぎた。昨年3月、筆者が単発の仕事でシドニーに滞在した折り、当地在住の旧知の元日本代表・田代有三から「長谷川悠、知ってますか」と聞かれた。海外在住が長くなって、Jリーグに関しての細部にわたる情報収集が難しい身でも、さすがにJ1、J2通算350試合近い公式戦の出場記録がある選手ならば、その存在は知っていた。
「よければ、紹介しますよ」との田代の言葉に「ぜひ」と甘えた筆者。その日の仕事場だったマーティン・プレイスに、2010年のモンテディオ山形で共にプレー“山形のツインタワー”と称された、押し出しの良い2人の長身選手が連れ立って会いに来てくれたのには恐縮した。
それ以来、長谷川の動向は州境の向こうからではあるが常に気にしてきた。幸い、彼自身がSNSでこまめな発信を続けているので彼の情報のインプットは少なくなかった。しかし、それに反し、キャリアも豊富な個性派の彼に関するアウトプットが、コロナ禍での当連載の休載もあり、不実行なのがずっと気に掛かっていたが、ようやく今回実現できた。
渡豪後、ロックダウンなど予期せぬさまざまな経験を経て、昨季はウーロンゴン地域のイラワラ・プレミア・リーグのウーロンゴン・オリンピックに所属するも、コロナ禍でリーグ戦はわずか11試合に短縮され不完全燃焼に終わった長谷川。その後、NPLNSWの名門シドニー・オリンピックとの契約を勝ち取り、今季から州レベルの最高峰NPLの舞台で挑戦を続ける。復活祭休暇真っ只中の開幕5戦目に途中出場で泥臭く決めた今季初ゴールは、苦労人の本領発揮への狼煙(のろし)となるはずだ。
英語に苦戦しながらも豪州生活を満喫する個性派がこの地でプレーを長く続けるには、ピッチ上で成果を出し続けることが肝要だ。当の本人は、そんなことは言わずもがなとばかりにありったけの気持ちを込めピッチを駆け回っているに違いない。この週末もシドニーのどこかで。
解説者
植松久隆(タカ植松):ライター/コラムニスト
うえまつの呟き
「OptusでJリーグを観戦できるようになって久しい。各節数試合ずつでポスタコグル監督などの豪州絡みが多いが、その対戦相手として、今季からJ1復帰の我が麗しのアビスパ福岡の奮闘ぶりも豪州にいながらにして楽しめる。いやはや、良い時代になったものだ」