オージー・ワイルドライフ診療日記 第87回
大型の海鳥、オオグンカンドリ
カランビン野生動物病院では、毎年400種を超える野生動物の治療が行われていますが、滅多に保護されることがない種の動物については、なかなか治療やリハビリの経験を積むことができません。年に1、2匹保護されるかどうかのカモノハシやアホウドリがその例です。
例年、サイクロンによる暴風で航路から外れてしまった渡り鳥たちが、浜辺で見つかり保護されます。今年は嵐が続いたにもかかわらず、保護された渡り鳥の数はかなり少ないものでした。岸にたどり着く前に力尽きてしまったか、沖で難を逃れたかは知る由もありません。
そんな中、オオグンカンドリという大型の海鳥が住宅街で発見され保護されました。まだ幼く、痩せて脱水症状がありましたが、幸いけがなどはなく、少しの間の休息と給餌で回復するだろうと思われました。同病院でオオグンカンドリが治療を受けたのは4年前に一度きり。そのため、何を以て野生に返せるほど回復したと見極めるのか、調べ直す必要がありました。
最も頻繁に保護される渡り鳥のミズナギドリの場合、羽毛の防水性が回復したら渡りを再開する準備ができたと判断します。しかし、オオグンカンドリは一生のほとんどを飛行に費し、水面で浮いたり泳いだりすることはないため、羽毛に防水性はありません。海鳥と言っても、着水したら溺れてしまうのです。
羽毛の防水性を基準にはできませんので、国内外の鳥類学者に相談し、体重の増加、自分で餌を食べられる、鳥舎の中を自由に飛び回ることができる、といったことを指標にしました。
4月上旬、オオグンカンドリは病院近くの海辺からリリースされました。ケージから出てしばらくは飛ぶのをためらっていましたが、意を決したように翼を広げてフワッと高く舞い上がり、何度か旋回した後、沖に向かって行きました。この先どれほど長く生きてくれるかは分かりませんが、病院で過ごした期間が少しでも休息になったことを願うばかりです。
このコラムの著者
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。小動物病院での勤務や数々のボランティア活動を経て、現在はカランビン・ワイルドライフ病院で年間1万以上の野生動物の保護、診察、治療に携わっている。シドニー大学大学院でコアラにおける鎮痛剤の薬理作用を研究し修士号を取得。