オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第27回 Johannes Vermeer
(ヨハネス・フェルメール)
「Allegory of the Catholic Faith (ca.1670-1672) 」
6月12日〜10月17日まで、クイーンズランド・アート・ギャラリー近代美術館(QAGOMA)で「ニューヨーク・メトロポリタン美術館からヨーロッパの傑作(European Masterpieces from The Metropolitan Museum of Art, New York)」が開催される。ニューヨーク・メトロポリタン美術館がQAGOMAと協議してキュレーションを行い選出した65点におよぶ肖像画、静物画、風景画、人物画を展示。レンブラント、ルーベンス、ターナー、デガール、ルノワール、セザンヌ、モネなどの作品に加え、フェルメールの絵画を体感することができる。
今回紹介するヨハネス・フェルメールの「Allegory of the Catholic Faith」は、オランダでミサの公的な祝賀が禁止されていた時期に描かれた作品だ。抽象的な事柄を具体化する表現技法の1つとして、カトリック教会の勝利が描写され、カトリック信仰のメッセージが絵画で表現されている。「信仰」の姿は、ドラマチックなポーズをとった女性として描かれ、彼女の目線は上を向き、手を胸に抱いて右足を地球儀の上に置いている。教会そのものとして表現された女性像が地球の上に片足を置き、前景では教会の礎石が悪の蛇を押しつぶしているのだ。
フェルメールは、イタリアの図像学者・チェーザレ・リーパの「イコノロギア」(1555〜1622)に影響を受け、彼女の作品はリーパの象徴的な表現に基づいたものに少し工夫が凝らされている。当時の優れた画家たちの間で普及した非常に洗練されたスタイルで描かれている点が特徴だ。彼女は、結婚前にカトリックに改宗。聖杯やミサ典書、十字架が飾られたテーブルが描かれている同作品は、「隠れた教会」として個人の家で行われるミサの祝祭に言及しているのかもしれない。背景に描写された十字架の絵画は、バロック期のフランドル派の画家ヤーコブ・ヨルダーンスによって描かれた物が引用されている。
QAGOMAでディレクターを務めるクリス・セインズは、「同展覧会は、教会と国家の後援を通じて創造性が厳密に管理されていた時代から、独立したアーティストによる現代的な考えが生まれた時代まで芸術及び芸術家の発展をたどる」と話す。ぜひ、この機会に500年にわたるヨーロッパの傑作を鑑賞してみてはいかがだろう。
European Masterpieces from The Metropolitan Museum of Art, New York
Web: www.qagoma.qld.gov.au
Instagram: qagoma
このコラムの著者
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。グリフィス大学で美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、サウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
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