トミヲが掘る!宝石大陸オーストラリア
QLD Yuleba – Carnelian
木の化石と紅玉髄
昨年7月、コロナ禍による移動規制が緩和され、何とか石探しも再開。この冬のQLD州内陸部は、日差しは強いが暑過ぎず、夜も寝袋1つで過ごしやすい。キャンプしながらの石探しには最適のシーズンだ。
ブリスベンからワレゴー・ハイウェーで西へ約400キロのユレバ(Yuleba)が今回の目的地。アボリジニの言葉で睡蓮(すいれん)(Water Lily)の咲く場所という意味の人口200人の小さな町だ。そこから南に70キロのシュラット(Surat)とユレバをつなぐ道は、ゴールド・ラッシュだった1850年代から1924年まで駅馬車が通り、にぎわいを見せたが、今では地元民にしか使われない。そんな旧道の所々にある「川」が今回のお目当てだ。
冬の干上がった「川」の脇に車を停め、川底の石を見て驚く。至る所、それこそ触るもの全てが木の化石だった。木の化石でも赤が入ったものは高値が付く。特にブリスベンの西280キロのチンチラ(Chinchilla)で採れる物はチンチラ・レッドと呼ばれ、高値で取り引きされる。狙うは赤い石。目を凝らすと、瑪瑙(めのう)化した木の化石や小粒の瑪瑙、木目のはっきりした化石、ジェットと呼ばれる真っ黒な木の化石など色も形もさまざまあり、目移りして困る。
たっぷりバケツ一杯に集め、そろそろ引き上げようと思ったその時、ふと足元に他と全く異なる質感の赤茶色の石を見つけ、思わず甲高い声を上げた。「琥珀(こはく)(樹脂の化石)か!?」――。拾い上げると、琥珀と違い重さのある半透明の石。太陽にかざすと、吸い込まれるような柔らかく深みのある飴色を放った。
その石は、英語でカーネリアン(Carnelian)と呼ばれる鉄分を含んだ紅玉髄(べにぎょくずい)であった。縞模様が入った玉髄は瑪瑙、不透明な玉髄は碧玉(へきぎょく)と区別されるが、ここまで大きく色の濃い紅玉髄にお目に掛かるのは初めてで、歓喜の叫びが抑えられなかった。
その日最大の成果物をポケットに収め、バケツ一杯の木の化石を車まで運ぶと、旅宿を求めてそこから150キロ西の温泉町ミッチェル(Mitchell)に向かった。温泉はぬるく温水プールのようだったが、そのぬるま湯にゆっくりと浸かると、1日の疲れはどこかに消えた。
結局、近くに見つけたキャンプ場にテントを張り、アウトバックの満天の星の下で、焚き火に紅玉髄を透かしてみた。この石と出合った感動を噛み締め、自然と笑顔が溢れる。さあ、次はどんな場所でどんなすてきな石に出合えるだろう――。
これだから石探しは止められない。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。本職の不動産仲介業の傍ら暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石と旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。その活動の様子は、公式YouTubeチャンネル(Web: youtube.com/user/gdaytomio)で楽しめる。現ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長