オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
掲載情報は7月1日時点のもの。Covid-19の影響によりNSW州立美術館は只今休館中です。最新情報は公式サイトで確認を。
第28回 Nora Heysen
(ノラ・ハイゼン)
「Mme Elink Schuurman (1938 Archibald Prize winner) 」
オーストラリアで長い歴史を持ち、最も愛されていると言われる肖像画賞「アーチボルド賞」が今年、100周年を迎える。アーチボルド賞の豊かな歴史を探る画期的な展示会「Archie 100 :A Century of the Archibald Prize」は、9月26日までNS W州立美術館で開催されており、全国ツアーが11月から行われる予定だ。同展示会では、失われた肖像画に関する長年の研究からテーマ別に整理された作品を鑑賞することができる。NSW州立美術館にコレクションされている絵画に加え、オーストラリアとニュージーランドの図書館や美術館にある作品、オーストラリア及び国際的なプライベート・コレクションが含まれている。
同賞は1921年以来、肖像画公募から選ばれ、オーストラリアとニュージーランドの著名な画家及び新興アーティストたちのエントリーにより、著名人から地元のヒーローまで、あらゆる分野の人びとが取り上げられ、そこに焦点が当てられている点が特徴だ。オーストラリアが国として成長した背景や、過去100年にわたる社会的及び政治的変化が反映され、多くの批評的なレビューや賞賛を生み出している。
38年、アーチボルド賞を受賞した最初の女性であるノラ・ハイゼンは、28歳で最年少の芸術家となった。オーストラリアの有名な風景画家ハンス・ハイゼンの娘である彼女の受賞は、それまでのさまざまな芸術賞よりも多く報道され、賞の審査について政府の調査を求める声もあったという。その理由の1つとして、シッターの適切性が挙げられた。
同作品のモデルとして描かれたオランダの外交官の妻マダム・エリンク・シューマンの並外れた美しさは審査員を魅了。その一方で同年、オーストラリアは戦争に参戦し、オランダはオーストラリアの海岸で武器を製造していたという。それは単なる偶然か、それとも外交戦略なのか…
ノラは、初の女性アーチボルド賞の受賞者として39年、オーストラリアの有名女性週刊誌に、彼女のお気に入りのレシピ(ハンガリー風シチュー)を提出するよう招待されたことをきっかけに、キッチンで過ごす主婦という立場より芸術家としてのキャリアを選んだ。43年、彼女はオーストラリア初の女性公式戦争アーティストになり、創造的な先駆者としてその地位を確立した。
NSW州立美術館
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
Instagram: artgalleryofnsw
*Message from the Director:
Dear friends of the Art Gallery of New South Wales
In line with the new public health orders, the Art Gallery of New South Wales and Brett Whiteley Studio are temporarily closed to the public.
このコラムの著者
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。グリフィス大学で美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、サウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Instagram: @lucymilesfineart
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■Email: info@lucymilesfineart.org