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連邦与党国民党の政変劇/政局展望

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政局展望ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 急激に燃え上がった与党国民党のリーダーシップ問題だが、結局、国民党は6月21日に開催した定例の国民党議員総会の中で党首選挙を実施している。予想通り、マコーマック同党党首兼副首相に挑戦したのは、前党首で陣笠議員のジョイス1人だけであったが、結果は僅差でジョイスが勝利を収めている。

「問題児」ジョイス国民党議員

国民党党首に返り咲いたバーナビー・ジョイス元党首(写真=本人フェイスブックより)
国民党党首に返り咲いたバーナビー・ジョイス元党首(写真=本人フェイスブックより)

 自由党と国民党は長年にわたって連立関係を結んできたことから、両党を括(くく)って保守連合とした上で、労働党と共に2大政党などと呼んでいる。ただ、その思想的「重心」が中道右派で、小ビジネス層などを支持基盤とする自由党と、右派で地方在住層、とりわけ農業従事者層を支持基盤とする国民党では、各種政策分野で少なからぬ、あるいは小さからぬ差異がある。

 例えば、国民党は経済改革などには不熱心だが、より強力で、改革志向の自由党と連立していることから、「地方の声」と自由党との板挟みに合い、結局は自由党に押し切られることも多い。両党の軋轢(あつれき)の典型例が、ハワード保守連合政権が推進した巨大通信企業テルストラの民営化に、QLD国民党が強く反対したことであった。

 その国民党における反テルストラ民営化運動の指導者格だったのが、当時陣笠議員に過ぎなかったバーナビー・ジョイスであった。エキセントリックで地方在住層には人気のあったジョイスだが、自由党側にとっては「問題児」だったのだ。一方、国民党の要職に就く前には、同党内にも「派手な」ジョイスを嫌う者もいて、同グループは「ジョイスだけは駄目/ジョイス以外なら誰でも良い」(“Anyone But Barnaby”)グループと呼称されていた。

 ただ、当時ジョイスに有力対抗馬は見当たらず、トラス党首が辞任した場合は、やはりジョイスが後任となる公算が高いと見られていた。実際に、ジョイスは2016年2月に党首に就任したが、その後も連邦政界で強い存在感を示し、党首として初めて戦った16年選挙や、次の19年選挙では、国民党にとり満足の行く結果を残している。

ジョイスの失脚と復活

 ところが、党首就任からちょうど2年後の18年2月に、ジョイスは国民党党首からの辞任を余儀なくされている。最大の理由は、17年の中ごろから既にキャンベラの政界では噂になっていた、ジョイスの不倫問題であった。

 ジョイスは同年の12月に、24年間連れ添った細君のナタリーと別居したことを自ら告白している。このナタリーは、政治家の妻として積極的に活躍するというタイプでは全くないが、自身のキャリアを犠牲にしてジョイスを内側から支えてきた、典型的な「内助の功」タイプの女性であった。そのため、当時のジョイスの「不倫」問題では、ナタリーに同情する向きが多かった。ただし、ジョイスも詳細を明らかにしたわけではなかったし、そもそもプライベートなことなので、当初は国民も特段の関心を抱くことはなかったと言える。

 そのジョイスの「不倫」問題が一挙に注目され、また18年の2月に再開された議会でも取り上げられたのは、人気大衆紙のデイリー・テレグラフ紙が、第1面にジョイスの恋人であるキャンピオンの写真を掲載したからであった。この女性が当時33歳と若く(注:ジョイスは当時51歳)、また17年の4月までジョイスのメディア担当顧問であったこと、しかもジョイスの子どもを宿していたことなどから、「不倫」問題が大いに注目され、また物議を醸したのである。

 それまでのジョイスが、家族重視を盛んに説く一方で、裏では若い女性を選び、長年にわたりジョイスを支えてきた細君のナタリーを捨てたわけで、こういったジョイスの偽善性が、メディアの報道を煽(あお)っていたのだ。

 いずれにせよ、18年2月に国民党では党首がマコーマックに交代し、ジョイスは連邦政府のナンバー2の地位から、一挙に陣笠議員へと滑り落ちている。ただ、その後もジョイスから「生臭さ」が抜けたわけでは決してなく、早くもちょうど2年後の20年2月には、僅差で敗北を喫しはしたものの、国民党内の求心力の低下に乗じ、ジョイスはマコーマックへの第1回目の党首挑戦を行っている。

 党首挑戦にまで発展した背景には、何よりもマコーマックのパフォーマンスに対し、党内で不満が嵩(こう)じていたとの事情があった。そしてマコーマックへの不満の背景には、マコーマックが連立先でシニア・パートナーであるモリソン自由党に迎合し過ぎる、あるいは追従し過ぎるとの不満と、またマコーマックが地味過ぎて、地方有権者層に訴える力や政策を「売り込む」力が不足している、との国民党議員の思いがあった。

 このマコーマックへの低評価は、その後も一向に改善せず、他方で、次期連邦選挙が迫っているとの事情もあって、ジョイス支持陣営による、今回の奇襲的な第2回目の挑戦となった次第である。

予想される保守連合内の軋轢

 ジョイスが国民党党首兼副首相に返り咲いたことの意味合いだが、何と言っても、「率直な」ジョイス率いる国民党が、今後独立性を高める方向に動くことは確実である。要するに、モリソンは次期連邦選挙を間近に控えた時期に、国民党との重要政策や選挙戦略の擦り合わせ、重要な路線交渉において、マコーマック指導下時代よりも多大な時間と、エネルギーを使うことを余儀なくされることは確実である。

 それを如実に示したのが、ジョイス復活の直後に発生した事件、すなわち、与党国民党議員が自由党に無断で行った、保守連合がかつて支持し、既に成立させた法案を修正しようとの試みであった。ちなみに、それは長期にわたって重要政治問題であり続けている、マレー・ダーリング河川流域の水量回復問題に関するものであった。

 ただし、与党自由党にとってより重大で、しかも豪州の将来の環境・エネルギー政策ばかりか、貿易政策にも密接に関わる問題がある。それは、気候変動問題における長期目標に関し、いかに自由党と国民党との政策を擦り合わせるかというものである。具体的には、今年11月にグラスゴーで開催される「第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)」への対応、要するに、保守連合政府の地球温暖化政策の行方である。

 周知の通り、地方選挙区を地盤とする国民党は、地方経済を発展させ、地方を支える資源産業、石炭やガスといった化石燃料には前向きで、産業や世帯に追加コストを強いるような、厳格な温暖化対策には強く抵抗している。他方で、つい最近までのモリソンは、ガスはもちろん、石炭も重視する姿勢を見せてきたが、温暖化対策へのモリソンの姿勢は、より積極的なものへと変化しつつある。

 そこで注目されているのは、COP26までに、あるいは同国際会議において、モリソン政府が「ネット・ゼロ目標」、すなわち、2050年時点で温室効果ガスの排出をネットでゼロにするという目標に、果たして公式にコミットメントを表明するか否かという点である。ところが、もともと温暖化問題では冷淡な国民党議員の一部は、コミットメントには反対すると述べるなど、自由党側を強く牽制しているのだ。

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