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カルガモ農法の「古野農園」を訪問/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

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出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の四拾六
カルガモ農法の「古野農園」を訪問

 2008年に発行された著書『Essentially Japanese, Cooking & Cuisin』の制作に際してのエピソードを前回よりお届けしております。同書の構成にあたって、紹介したい日本の郷土料理、食材、調味料、酒などたくさんありましたが、限られた誌面と時間でまとめたため、伝えきれなかったものも残っています。海外で日本の食文化を紹介することに共感頂き、忙しい中、時間を割き、お話を聞かせてくださった方々の言葉は、今でも鮮明に思い出されます。思い出すたび、それぞれが地道に努力し培ってきた日本の魅力を伝えるのが、私の使命だと考えます。

 取材では、JR東海の協力を得てJRパスを使い、北は北海道から、南は九州まで周りました。車窓から見る景色の中で、私にとって、もっとも日本を感じさせてくれた好きな景色が、田園風景です。初夏、秋の収穫を前に深緑の稲の穂がたわみ始める情景はとても力強く、また、収穫期に向かい黄金色に代わっていくさまは美しく、季節と共に変化するその景色はいつ見てもうっとりさせられます。

 日本において稲作は、古来から生活の中心にありました。ですから、日本で米作りに関わる人たち、特に、サステナブルな米作りをされている方の声を聞かせて頂きたいと思い、いくつかの農家を訪れました。そんな中、世界各国に合鴨農法を紹介し、循環型農法を広めた『アイガモがくれた奇跡』『Power of Duck』などの著者、古野隆雄さんの「古野農場」(福岡県嘉穂郡)を訪れました。お会いしたのは、2007年の初夏の晴れた日でした。その日はたまたま、古野農園で畑づくりと種まきの講習集会が行われていて、私も参加しました。種づくりから畑の土づくりまで、有機農業を目指して県内外から集まった年齢層もさまざまな方々と一緒にお話を聞き、実際に畑への種まきを手伝わせていただきました。

 気持ちいい汗をかいた後、大切に育てられた稲がたわわに実っている田んぼのそばで、カルガモ農法についてお話を聞きました。私自身、米を作った経験はないのですが、カルガモ農法の説明は分かりやすく、質問にも答えて頂きました。カルガモ農法の成功はもちろん、培ってこられた知識を、惜しみなく、同じ志を持つ人たちに分かち合おうという姿勢に、強く感銘を受けました。古野さんの、ものづくりへの確かな信念が、世界各国から依頼が絶えない由縁かもしれません。

 古野さんの名刺には、「百姓百作」という言葉が入ってました。古野さん曰く「百の仕事をするから百姓、そしてなんでも作るから百作なんです」とのこと。今でも、その言葉は心に残り、生産者の大変さと、創意工夫して作り上げられたものを頂く感謝、喜びへとつながっています。

 また、山形県の自然循環型農業を目指すファーマーズ・クラブ「赤とんぼ」も訪れました。「土」「水」「大気」「微生物」間の自然の物質循環を取り戻す方法で、畜産、野菜、果物、農産物加工を行うシステム構築を、グループで取り組まれていました。ここでも、若い人たちを育てるという、姿勢がうかがえ、頼もしく思いました。

 日本の食は変化していますが、「米作り」は日本の基盤と信じます。自然循環型農業に取り組まれている人たちを紹介することで、今後の農業を理解して頂く参考にしてもらえたら幸いです。次回は、南の最南端の駅、九州、枕崎での出会いを紹介します。

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。





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