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鹿児島県「枕崎」のユニークな食文化/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

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出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の四拾七
鹿児島県「枕崎」のユニークな食文化

 日本最南端のJRの基点駅「枕崎」にはユニークな食文化ありますが、ご存知でしょうか? 鹿児島中央駅から、砂むし温泉で有名な「指宿」を経過して2時間40分ほど、車窓から見えた海岸沿いの景色は絶景で、台風のシーズンの荒れた海が想像できませんでした。初めて訪れた「枕崎」。駅に着き、線路の終わりを確認すると、南端に立った感動がありました。外に出てまず気付くのが、この町の大きな産業のひとつ「鰹節」の工場から漂う香り。街の中心を抜けると鰹節工場が現れ、かつおの水揚げ量世界有数規模の枕崎漁港へと続きます。また焼酎などで有名な「薩摩酒造」が本社を置く歴史的な街でもあります。

 言うまでもなく鰹節は、日本食文化を支える食材の1つ。かつおを食する歴史は長いですが、江戸時代初期、紀州でかつおを燻製保存することに成功し、その後、土佐(高知)でそれにカビ付けし「本枯節」として旨味の成分が詰まった鰹節の生産に成功。その後鰹節の生産は、紀州、鹿児島、伊豆、千葉などへと広まっています。

 枕崎市漁業協同組合と地元の居酒屋「まんぼう魚処」の協力で、枕崎漁港の競り、鰹節の工房だけでなく、鯖節などの節製品工房の見学、薩摩酒造、更には、地元の薩摩芋を食べて育てられた鹿籠豚(かごぶた)の飼育まで見学させて頂きました。

 アポを取っていた漁業組合では歴史とかつお及び鰹節業界の現状をお聞きしました。鹿児島県枕崎は、かつおの漁獲高が高いこともあり、鰹節の生産が国内消費の4~5割のシェアを占めるとのこと。昨今、枕崎水産加工協同組合では、冷凍技術の向上により新鮮なかつおを急速冷凍し、日本全国でかつおの生食を楽しめるルートも安定してきているとのことでした。

 翌日、早朝の枕崎港を訪れたつもりだったのですが、競りのピークは既に終えておりました。しかし、船からすぐにかつおが競り場に並べられるシンプルなシステムと仲買人、また地方ならでは、料理人などが直接落札できる気軽さには親しみを感じました。

 鰹節は、4~6カ月の時間を掛け、いくつもの工程を経て作られます。まずは「生切り」、節となるサイズに切り分けられ、「煮熟」で身を煮られ、「骨抜き・修繕」という丁寧な作業の後、「焙乾」作業を繰り返し水分を抜き、付着したタールと脂肪分を「表面削り・修正」し、水分を減少させ香味を抜けないようにする「カビ付け」作業に入ります。このカビ付けを4回丁寧に行い、時間を掛けて作られたのが「本枯れ節」と呼ばれ、珍重されています。

 熟年の技術と経験が必要とされる鰹節の生産工程。手作業が多く、人手が掛かりますが、地元の若者たちは枕崎を離れ人手不足が続いています。枕崎の鰹節の経営者や工場長は日本人ですが、当時の従業員の多くは海外からの研修生、主に中国からの18歳~20代の独身女性でした。

 2021年7月、高知県、竹内商店が伝承する「土佐節の製造技術」が無形民俗文化財に登録されたというニュースを見ました。日本の食文化が、文化財登録されたことをうれしく思うと同時に、より多くの人が日本の食文化の豊かさに気付き、共に守り続けていかなければならないという責任を共有できたらと思います。次回は、枕崎の食と焼酎について書いていきます。

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。





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