日豪フットボール新時代 第123回
先駆者
東京五輪が終わった。豪州はグループ・リーグを敗退した「オリルーズ」とは対照的に、フットボール女子代表「マチルダス」はメダルまであと1歩に迫り、大きな存在感を発揮した。
そのマチルダスの顔ぶれを見ると、カイラ・クーニー=クロス、メアリー・ファウラーなど次世代を担う若手と競いながら、まだまだ要所要所を締めるベテランの頑張りに目が留まる。代表の半数近い10人はブリスベン・ロア・ウィメン出身の選手たちで、筆者にとってもなじみ深い。歴代3位のキャップ数を誇るレジェンドDFクレア・ポーキンホーン、MFタミカ・ヤロップなどが、若手に負けじと存在感を発揮した。
そんな彼女らの世界の舞台での活躍を見守る時、彼女らが駆け出しのころのブリスベン・ロア・ウィメンの2012-13シーズンを思い浮かべる。この年はGK岸星美、MF立岡幸子の2人が在籍し、共にリーグ優勝に大きく貢献した。その前年にWリーグ初の日本人選手となった岸は既に帰国したが、立岡はその後もブリスベンのローカル・リーグでプレーを続けている。
Wリーグにはその後、近賀ゆかりや永里優季、吉良知夏といった日本代表クラスが参戦するようになったが、立岡の存在はローカルからの昇格でWリーグ入りした唯一の日本人女子選手として、豪州でプレーする日本人選手の目指すべき目標となっている。
昨年来のコロナ禍で、男女問わずローカル・リーグでプレーする日本人選手の多くは志半ばでの帰国を強いられた。それでも、現地に残って挑戦を続けることを選んだ選手も少なからず存在する。本稿の写真に登場願った田中景子(グレイズヴィル/NPLNSW)、北野梨絵(サウス・ユナイテッド/NPLQ)は、ローカル・リーグで奮闘する日本人女子選手のフロント・ランナーと言って差し支えないだろう。彼女らのような選手の中から、いつかWリーグの舞台に羽ばたく選手が出ることを誰よりも願うのは、他でもない先駆者たる立岡自身だろう。
このコラムの著者
植松久隆(タカ植松)
ライター、コラムニスト。
うえまつの呟き「日豪共に男女そろい踏みをした東京五輪のフットボールだったが、日本男子、豪州女子が共に3位決定戦で敗れたのはとても悔しかった。もう少しで届かなかったメダルに次では届くように、パリまでの3年での日豪両国の成長をしっかりと見守りたいと思う」