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バーチャルがニューリアルへ/法律相談室

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第80回 日豪プレス法律相談室
バーチャルがニューリアルへ

 新型コロナウイルスの影響で、いわゆる“昔ながら”の対面ミーティングがしにくくなり、Zoomアプリなどを使ったオンライン・ミーティングの開催がごく普通の世の中へと変わりましたね。こうした時代の流れに沿って、豪州の裁判所もリモート・テクノロジーを取り入れるようになってきました。かつて訴訟の当事者や証人たちは、裁判所に出廷する必要がありましたが、最近では、例えば日本在住の証人が、ブリスベンでの裁判にビデオ通話で参加し、証言できるようになりました。更には原告・被告やその弁護士たちまでも、ウェブ会議ツールを使用して裁判官と話せるようになっています。

 こうしたリモート・テクノロジーの採用は、コロナ禍において安全で効率的に裁判を進めるためだけでなく、ロックダウン中に人の移動が制限された中で法が認めた唯一の手段でした。

 法廷の様子も大きく様変わりしています。裁判進行の効率化や裁判事務の向上に、多くのテクノロジーが貢献しているのは言うまでもありません。しかし、今でもテクノロジーの採用に消極的なエリアもあるのは事実です。例えば、現在、豪州で裁判のテレビ中継や許可なく裁判の様子を録画することは法律違反です。裁判所内、特に法廷内でのデジタル・デバイス(携帯電話、タブレット、コンピュータなど)の使用は、悪用防止の観点から今でも厳しく制限されています。

 一方、裁判官は、法廷での証人による証言とそこで提出された書類から情報を得ることになっています。英語のバーチャル「virtual」は「virtue」の変化形ですが、これは「善良な性質」を意味するラテン語「virtutem」が由来です。人間の良さは内面にあり、ある意味それが本質であるという意味の言葉です。私たちの法制度において、「善良な性質」は基本原理です。

 人の正直さが最重要であることの例を挙げましょう。裁判である出来事に関する互いの説明に食い違いがあったとします。その時、裁判官がどちらの説明を信じるかは、説明する人の信用度に掛かってきます。証人による証言をどれだけ裁決の根拠とするかは、どれほど信用できる証人なのか、という裁判官の見立てによっても変わってきます。つまり裁判官が、この証人は信用できない、と判断した人の証言は、裁決に無影響なのです。

 最後に……。コロナ禍において、「仕事を終えた金曜の夕方はオンラインで飲み会をしている!」という読者もいらっしゃると思います。それも1つのニューリアルですね。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。

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