脇道 ── Side Streets of Sydney
Through the Camera Lens of Nao Ashidachi
写真家・足達奈穂が切り取るシドニーの風景、そして込められた思いをつづる
街中に置き去りにされているスーパーマーケットのカート。
オーストラリアではよく見る風景だけど何だか「あっ」と毎回思うのでよく写真に記録してしまう。
「あっ」と思う違和感。
ここにないはずのものがある面白さ、そしてまた可愛さ、愛おしさも感じる。
この時遭遇したのは青空の下、湖の中に半分以上浸かっているカート。
究極の違和感。
この湖はセントラル駅からほど近いグリーブにあるビクトリア・パークの中のノータム湖。
事故的に入水してしまったのかそれとも……。
背景を妄想してしまう。
どうせなら美しく撮ってあげたいなと思って、アングルを模索しながら数枚撮らせていただいた。
ミレーが描いた名画、ハムレットの「オフィーリア」が頭をよぎりながら。
行きつけの写真屋がグリーブにあるので、後日「オフィーリア」を確認しに行ったが、引き上げられてなくなっていた。
カートの管理、回収が大変なのは容易に想像が付く。
オーストラリア人にとってはなんてことはない、よくある風景。
でも日本人の私から見たら「あっ」と違和感を感じる。
逆に、日本ではなぜカートがあちこちに転がっていないのだろうとオーストラリア人は考えたりするのかな。
カートを主人公に、思いを掘り下げてしまった1枚だ。
足達奈穂 Nao Ashidachi
ドイツ生まれ。海外転勤の多かった父に連れられ、幼少時代の多くを海外で過ごし、結婚後は夫の海外赴任に伴いオーストラリアへ。2018年よりシドニー在住。14年ごろから東京のストリート・スナップを撮り始め、写真家デビュー。東京の街を舞台にした写真集『boys in tokyo sentimental』を刊行中。現在、東京メトロ×AND STORYの地下鉄車内用広告写真を手掛けている