法律相談室/適切な法廷(地)を求めて~フォーラム・ノンコンビニエンス~

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第63回 適切な法廷(地)を求めて~フォーラム・ノンコンビニエンス~

銀座のデパートで高級ブランド・バッグを購入しようとしているあなた、同等の商品が「コメ兵」で半額で買えるとしたら……どちらで買おうか迷いますよね?ショッピングと同じように、弁護士も案件にとって最適な法廷地(裁判所)を選べる場合があります。

争議は、最も適切な裁判所で裁かれるというのが法律原理です。訴訟の性質にもよりますが、裁判所の選択には管理的制限がありますので、刑事事件は刑事裁判所でしか裁くことができませんし、オーストラリアにおいてある特定の企業紛争は、州の裁判所ではなく連邦裁判所で争われます(連邦法は、連邦裁判所が有する裁判管轄権を指定)。

状況によっては、別の州の裁判所や別の国の裁判所に変更可能な争議もあります。この法理は“フォーラム・ノンコンビニエンス”と呼ばれていて、当事者は、その争議にとってより便宜的な法廷(地)で争えるよう、裁判所変更のリクエストを出すことが可能です。裁判所の変更が適切であるかどうかは、さまざまな要因、例えば当事者の居住地、重要となる証人の居住地、審理にかかる費用などを考察して決定されます。

当然のことながら、裁判所の変更は、当事者の一方にとって有利で、もう一方にとって不利である場合があります。2018年10月にインドネシアで起きたライオン・エア610便墜落事故の遺族が、現在ボーイング社に対して行っている訴訟がその一例です。

現在、米国インディアナポリス州の裁判所で行われている訴訟は、今後、事故現場であり、遺族(証人である)のほとんどが住むインドネシアの裁判所に移される可能性があるようです。法廷地を移すというこの法的戦略は、ボーイング社に著しい財政的利益をもたらすかもしれません。なぜなら、インドネシアの裁判所は米国の裁判所に比べて、金銭的な補償に関してより控えめな査定をすることが目に見えているからです。現在この裁判を扱っている米国の裁判官は、法律上、法廷地の変更は可能だが、実際まだ、そうした決断には至っていないと言っています。

ボーイング社の法的主張としては、墜落事故と最も密接に関係する国、インドネシアの裁判所で裁かれるべき、ということなのです。墜落事故により189人の命が奪われましたが、その遺族たちは、法廷地が米国の裁判所からインドネシアの裁判所に移り、ボーイング社の経済的責任が軽くなる可能性について疑問視しています。遺族にとってインドネシアの裁判所で裁かれる場合の不利益の1つに、インドネシアでは米国と違って、企業の過失に対して懲罰的な賠償が求めらないという点があります。


ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。

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