法律は何となく難しいもの――そう思ってはいませんか?しかし法律は私たちの日常生活と切っても切り離せないもの。このコラムでは毎月、身の回りで起こるさまざまな出来事を取り上げ、弁護士が分かりやすく解説を行います。
第52回:オーストラリアにおける医療用大麻について
オーストラリアでは2016年2月に「Narcotic Drugs Amendment Act 2016」が制定されたことにより、16年10月から医療用大麻の利用がシステムとして合法化されました。この改正によって、オーストラリア国内における医療目的と科学的研究目的の医療用大麻の栽培が認められるようになり、医師が必要と診断した場合に限り、患者に医療用大麻の使用が認められるようになりました。
現在は主にがんや癲癇(てんかん)、多発性硬化症など慢性的な痛みが伴う症状に処方されるケースが多いようですが、法律上は特定の病気に限定されているわけではなく、その症状に対して、医療用大麻の使用が適切だと医師が判断すれば、処方されることになります。
世間のイメージとは異なり、オーストラリアにおける医療用大麻は煙草のように火をつけて喫煙することは認められていませんし、ましてや自分で育てることもできません。オーストラリアにおける医療用大麻のシステムは、医師の処方の下で処方される、一定の品質管理が行われた大麻を医療用の目的で使用するシステムのことを言います。
医療用大麻としての合成成分を含む錠剤やカプセルなどを服用することで、ひょっとしたら気分がハイになることはあるかもしれませんが、それが医療用大麻本来の目的ではありませんので、そのような効果はないかもしれないということです。
あくまでも、オーストラリアの医療用大麻というのは、医療目的として用いられるモルヒネのような位置付けであるように思われます。医療用大麻は含有される薬効成分や比率を変えることで特定の疾患を改善しやすくするなど、症状に特化した処方が可能であり、有効な治療法がない疾患や難病の方の症状改善、痛みの緩和に使用することができますので、オピオイド系の治療(モルヒネなど)で対処が難しい場合の処方として期待されています。
なお、オーストラリアで医療用大麻を使用する場合は、医師の診断を取得してから、政府に医療用大麻の患者としての登録を行い、ライセンスを発行してもらわなければなりません。医療用大麻を利用するに当たってのコストは、患者の状態や使用頻度にもよりますが、1週間当たり50ドル~1,000ドルほどのようですから、価格的にも医療用大麻が嗜好用大麻として横流される可能性はほとんどないように思われます。
弁護士:神林佳吾
(神林佳吾法律事務所代表)
1980年東京生まれ。95年渡豪、2004年クイーンズランド大学経営学部・法学部、同大学大学院司法修習課程修了後、弁護士登録。以後15年にわたり離婚・遺言・相続・会社法・訴訟を中心に対応