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新・豪リークス/豪大規模森林火災から“生きた化石の木”が焼け残る。日本の自衛隊も援助活動開始

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現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第32回 「豪大規模森林火災から“生きた化石の木”が焼け残る。日本の自衛隊も援助活動開始」

大規模な森林火災が続くオーストラリア。広大な範囲が焼け、途方もない数の野生動物が犠牲になるなど甚大な被害をもたらした。日本の自衛隊も輸送機を現地に派遣して援助活動を開始する中、恐竜時代からそのままの姿で生き続けているという「生きた化石の木」が、奇跡的に森林火災の猛火から守られた。

◇「生きた化石の木」ウォレマイ・パイン焼失の危機

「化石の木」ウォレマイ・パインの群生地での森林火災消火活動(ウォレマイ国立公園、写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)
「化石の木」ウォレマイ・パインの群生地での森林火災消火活動(ウォレマイ国立公園、写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)

オーストラリア南東部を襲った大規模な森林火災は、NSW州、VIC州などの広範囲で同時多発した。南オーストラリア州のカンガルー島では島の3分の1が焼失し、コアラやカンガルーなどの多くの野生動物が犠牲となり、消火活動に当たったボランティア消防隊員などの人命も失われた。また、シドニーの西約200キロ・メートルにあるウォレマイ国立公園のゴスパーズ山では、複数箇所で起きた火災が合流し巨大化する「メガ火災」が発生。「ジュラシック・ツリー」または「生きた化石の木」と呼ばれる貴重なウォレマイン・パインの群生地が焼失の危機に晒された。

現存する最古の種子植物とされるこのウォレマイ・パイン。ナンヨウスギ科の針葉樹で、高さは40メートルにもなる。濃い緑色のとがった葉が2列に並んで垂れ下がっているが、触っても痛くはなく、泡立ったチョコレートのような幹が特徴的だ。まさに恐竜が闊歩していた地質時代のジュラ紀(1億5千万年~2億年前)から生きているというウォレマイ・パイン。今から150万年前に絶滅したと考えられていたが、1994年、ウォレマイ国立公園の峡谷に100本ほどがまさに身をひそめるように群生していたのが偶然発見された。植物界における20世紀最大の発見と言われるこの貴重な木を守るため、群生地の場所は極秘とされたが、シドニー植物園の研究者が、採取したウォレマイ・パインの枝からいわゆるクローンを作り繁殖させることに成功。現在オーストラリア国内の園芸店など栽培された木が一般に販売されている他、日本にもごくわずかだが輸出されている。

◇極秘で行われた「保護作戦」

峡谷の境目で奇跡的に焼け残ったウォレマイ・パイン。周りの木々が森林火災で焼け焦げているのが分かる(写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)
峡谷の境目で奇跡的に焼け残ったウォレマイ・パイン。周りの木々が森林火災で焼け焦げているのが分かる(写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)
ウォレマイ・パインの状況を確認するNSW州の消防隊員(写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)
ウォレマイ・パインの状況を確認するNSW州の消防隊員(写真提供:NSW Department of Planning, Industry and Environment)
航空自衛隊C130H輸送機の前で記者会見する太田将史1等空佐(1月16日、リッチモンド豪空軍基地、筆者撮影)
航空自衛隊C130H輸送機の前で記者会見する太田将史1等空佐(1月16日、リッチモンド豪空軍基地、筆者撮影)

2019年12月末、オーストラリアの各メディアが「ジュラシック・ツリー消滅の危機」を伝えた。ウォレマイ・パインの群生地に迫ったメガ火災が「out of control(制御不能)」となり、まさに手がつけられない状態となっていたからだ。その一方、NSW州公園野生生物保護局は、極秘に特別部隊を編成。何とかこの貴重な木を守ろうと、必死の努力を続けていた。

特別部隊は、まず空からウォレマイ・パインが自生地の周りに延焼を防ぐための防火剤を散布。さらに消火活動を行う消防士らが険しい渓谷にヘリコプターからロープで下り、スプリンクラーなどの散水装置を地上に設置した。その後、メガ火災の猛火に近づくと、ヘリコプターによる消火活動を繰り返し行った。そして、年が明けた今年1月15日、マット・キーンNSW州環境相は「火災の炎で焦げた木もあったが、ウォレマイ・パインの自生地は焼け残った」と発表。まさに「前例のない環境保護作戦」だったと特別部隊のスタッフらを賞嘆した。

◇航空自衛隊が緊急援助活動開始

「オーストラリアに恩返しをするという意味でも、全力を傾注して任務を遂行したいと思います!」――そんな中1月16日、森林火災で国際緊急援助活動を行うために派遣された自衛隊のC130H輸送機2機が、シドニー郊外にあるリッチモンド空軍基地に到着。国際緊急援助空輸隊司令の太田将史1等空佐が、東日本大震災発生時、オーストラリアがいち早く空軍輸送機を被災地に派遣したことを回顧し、集まった記者団の前で決意を語った。

今回派遣された隊員は約70人。自衛隊が大規模火災で国際援助活動に当たるのは初めてで、支援物資や消火活動に従事する消防隊員などの輸送を行うという。また太田1等空佐が「被災者の心に寄り添う支援をしたい」と話したのに対し、豪空軍のカール・ニューマン准将は「自衛隊の部隊派遣に感謝すると共に、支援が必要なあらゆる所で任務を行ってもらいたい」と述べ、お互い固い握手を交わした。

◇大自然災害の前で人間ができることとは……

日本の本州の半分近くを焼き、火災の煙は海を隔てた隣国ニュージーランドだけでなく、地球を1周する勢いだという。まさに想像を絶するような大災害の前で、人間の無力さを痛感したのは筆者だけではないはずだ。地球温暖化などの気候変動が今回の大規模火災の原因の1つだとされるが、我々人間ができることとは一体何だろうか?ウォレマイ・パインについての著作がある環境サイエンス・ライターのジェームズ・ウッド氏は「今回のNSW州公園野生生物保護局・特別部隊の『決意』が、貴重な生きた化石の木を守った」としている。東日本大震災で発生した大津波にも流されず残った「奇跡の1本松」は、被災者や日本国民の希望のシンボルとなった。同様に今回焼け残ったウォレマイ・パインも、大災害の中、貴重な自然を守った人間の「決意」の象徴として人びとの記憶に残るであろう。


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
TBSシドニー通信員、FCA-豪・南太平洋外国記者協会会長、豪州かりゆし会会長、やまなし大使など。2019年5月、小説『奇跡の島~木曜島物語』を出版

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