オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第16回 グアン・ウェイ
(GUAN WEI)
「FENG SHUI」
1957年、中国・北京生まれのグアン・ウェイは現代美術の世界ではその名を知らぬ者はいない世界を舞台に活躍するアーティストの1人だ。
1989年にオーストラリアへと移住し、以後30年間にわたって見続けてきたオーストラリアのカルチャーと、母国・中国のカルチャーをミックスした独特の作風に定評がある。美術の歴史への造詣も非常に高く、彼の作品には政治や社会に対するメッセージも込められている。
グアンの作品は基本的には明るい色調のものが多いが、そこには複雑な人間社会における人権や、人間の尊厳を問うメッセージが込められており、非常に深淵だ。
作品のスタイルも絵画や彫刻、インスタレーションなど多様性に富んでいるが、どの作品においても西洋と東洋の哲学を融合した独創的な世界を表現している。
今回紹介する「Feng shui」は現在、シドニー現代美術館で行われている同氏の特別展で展示されている主要作品の1つだ。
世界地図に描かれた大陸間の大洋を、さまざまな生物が静かに、しかし小さな幸せを抱えながらリズミカルに泳いでいる姿が描かれている。この作品にはグアンが考える世界の調和が描かれていると言えるだろう。
グアンは作品に、しばしば気候変動や医療、科学、難民危機などさまざまな問題を喚起するメッセージを込める。本作においても、世界地図の上に、神話の生物や古代のシンボルを配置し、それらを示唆している。
これらのモチーフは同氏の作品にこれまでもたびたび登場してきた。かつて古代に存在していたもの、あるいは神話上で登場してきたものを、現代に蘇らせることに深い意味合いを持たせているのかもしれない。
巨大な地図には120に及ぶ等圧線が描かれ、作中に描かれている雲の上には、風を吹かせる者の姿が見受けられる。その風は旅の途上にいる遊泳者を勇気付け、また、描かれている帆船の艦隊もその風によって航海が可能となっている。
実際の会場では、作品は直角に曲がった壁の2面にわたって展示されているが、同時に遊泳者や魚が作品を見ている鑑賞者に向かって来ているなど、総じて非常に立体的なイメージとなっているのも印象的だ。
グアンは、これらの不調和で、かつ奇妙な要素の組み合わせを世界地図の上に現出させることによって、見る者それぞれに、さまざまな物語の喚起を促している。
鑑賞者は、この作品を見ながら、世界の新しいつながりや出来事の意味を自らの中に発見することになるだろう。
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アートの美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Web: www.lmcuratorial.com / ■email: lmcuratorial@gmail.com
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