法律
Q
フルタイムで働いていた従業員が突然音信不通となり、3日間にわたり無断欠勤しています。この従業員の今週の賃金の計算はどうしたらいいでしょうか?また、今後この従業員に対し、どのような対応の仕方があるでしょうか?(50代女性=会社経営者)
A
まず、当該従業員に対し、どう対応するかは、その従業員がどんな理由で欠勤しているかによります。もし、その従業員が会社で働く意思をなくしたために正当な理由なく欠勤をしているということが明らかであれば、事は簡単です。雇用主はその従業員の欠勤を、「会社との雇用契約を破棄する意思」、つまり退職願の一種として受け取れ、その受諾を当該従業員に伝えることで、合法的にその従業員を事実上解雇できます。
しかし、「音信不通」ということで、当該従業員の欠勤の理由・意図が分からないとなると、話は少し難しくなります。もしもその無断欠勤がやむを得ない理由によるもの、例えば病気やけがによるものであれば、その欠勤は従業員による「雇用契約破棄の意図」にはならず、合法的に解雇する事はできません。オーストラリアの雇用法(Fair Work Act)の352条により、従業員が疾病休暇などの権利を行使した場合、一般保護(General Protection)という枠組みの対象となり、それを理由とした解雇は単なる“不当”解雇ではなく“不法”解雇の問題となり、雇用者は重い損害金の支払いを負わされる可能性が出てきます。
ただし、法律上、従業員は疾病休暇を取る場合、できる限り早い段階でその旨を雇用者に伝える義務を負っています。この点で怠慢があれば、従業員に対し、警告を出すことができますが、通常、解雇の正当な理由とまではなりません。なお、音信不通の理由が、交通事故で重傷を負い、病院に運ばれて連絡不能であったような場合であれば、当該従業員は何ら罰則の対象にはなりません。
今回の相談のケースでは、まずは欠勤を“無給休暇”という扱いにして、欠勤期間分の賃金の支払いを保留すべきです。もしもこの欠勤が実は病気やけがによるものであったということが後から判明した場合には、この欠勤期間分には、もしあれば疾病休暇を充当し、後に支払いを行えば良いと思います。
無給休暇扱いとなっている欠勤期間中も、電話、メール、郵便、家族や友人を通じてのSNSなど、可能な限りの手段を講じて連絡を試み、無断欠勤の理由を確認する努力をすべきです。それでも妥当な期間にわたり連絡が付かないようであれば、解雇に踏み切ってよいと思います。後日その従業員が出社したとしても、そういった連絡努力及び妥当な期間が経っていれば、解雇は合法とみなされると考えます。
どの程度の連絡不能期間が、上記の“妥当な期間”に当たるのかは、ケース・バイ・ケースの問題になります。普段は勤務態度も出勤状況も問題ない従業員が、例えば2日間の無断欠勤の後に出社して来た場合、その欠勤が無責任な理由によるものであったとしても、それを基に即解雇すると、その従業員から不当解雇のクレームを受けるリスクが残ります。その場合、無難な対処法は警告文を出すことです。後日同様の無断欠勤があれば、その時にまた状況を見て(解雇を含む)然るべき対応を考慮することになります。
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林 由紀夫(はやし ゆきお)
H&H Lawyers
横浜市出身。1972年来豪。78年ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部卒(法学士、法理学士)。79年弁護士資格取得。同年ベーカー&マッケンジー法律事務所入所。80年フリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所入所。84年パートナーに昇格。オーストラリアでの日系企業の事業活動に関し、商法の分野でのさまざまなアドバイスを手掛ける