脇道 ── Side Streets of Sydney
Through the Camera Lens of Nao Ashidachi
写真家・足達奈穂が切り取るシドニーの風景、そして込められた思いをつづる
平日のシティのランチ・タイム。
オフィス勤めのビジネスマンたちがぞろぞろと昼食を取りに同僚たちと連れ立つ光景を見るとシドニーって都会だなって改めて気付かされる。
キラキラした海を背景にしたスーツ姿が何だか切なく見えてしまうのはなぜだろう。
そんなことを思いながらダーリング・ハーバーで人間観察。
1人のスーツを着た男性に目が留まる。
ランチを持ってウッド・デッキの端に座り、イヤホンを装着し、ふと目を遠くへ向ける。
ひと息ついたようだった。
仕事の合間の貴重な休憩時間はおひとり様。
視界に見たいものを置き、選んだ音を聞き、自分のタイミングでサンドイッチを口に運ぶ。
至福の時間。
誰かと一緒に過ごすランチ・タイムもいいけど、孤独だけど充実した時間はとても人間らしくて、自分を前進させてくれる。
ビジネス・スーツの後ろ姿から孤独や哀愁を勝手に感じてしまうのは、サラリーマンが働き過ぎて疲れている国の、日本人特有の感覚なのかもしれない。
街には多くの人がいて、表面的に見ると自分にとっては感情を持たない物体に過ぎないけど、1人にスポットライトを当てると感情が行き交う人間同士の関係になるような気がする。
観察しているだけでは実際のことは分からないけど、無意識に自分を投影させて、放っておけなくなってシャッターを切ってしまった。
そんな1枚です。
足達奈穂 Nao Ashidachi
ドイツ生まれ。海外転勤の多かった父に連れられ、幼少時代の多くを海外で過ごし、結婚後は夫の海外赴任に伴いオーストラリアへ。2018年よりシドニー在住。14年ごろから東京のストリート・スナップを撮り始め、写真家デビュー。東京の街を舞台にした写真集『boys in tokyo sentimental』を刊行中。現在、東京メトロ×AND STORYの地下鉄車内用広告写真を手掛けている