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除虫菊(じょちゅうぎく)の花畑

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タスマニア再発見

No.138 除虫菊(じょちゅうぎく)の花畑
文=千々岩健一郎

先月の蕎麦(そば)の花畑に続き、今回は同様に白い菊の花畑を取り上げよう。蕎麦とは異なり花の時期は春先11月ごろ。やはりタスマニア北部の農業地域を走っていると見慣れない白い花が一面に広がる畑に出くわし、立ち寄ってみたくなる。実はこれが除虫菊(Pyrethrum)だ。

デボンポート空港近くにある除虫菊の花畑
デボンポート空港近くにある除虫菊の花畑

この菊から取れるパイレスリンという物質が天然由来の殺虫成分として人気が上がっていて、米国を始め世界各国に輸出されている。かつては日本でも栽培され、もっぱら蚊取り線香の原料として使われていた。家庭で使う殺虫スプレーなどは、人間にも環境にも優しいものが求められていて需要が大幅に伸びているのだが、栽培できる場所は限られているようだ。

タスマニアの農業スタイルは混合農業とも呼ばれるもので、単一の作物を専業的に耕作するのではなく、放牧の畜産といくつかの作物を組み合わせる。1つのパドックから見ればローテーションを行って毎年異なる作物を作り、何年かおきに牧草地にして家畜を放牧し土地を休ませる。聞くところによれば、この除虫菊を生産することで野菜の耕作地を休ませる効果もあるのだとか。農家にとってはケシの花と並んで利益率の高い作物ということで、ローテーションの1つに取り入れる農家が増えているのだ。

パイレスリンはタスマニアに本社のあるBotanical Resources Australiaという会社が、タスマニアとビクトリア州の一部を生産地として契約生産を行っていて、それぞれの州の工場で成分を抽出して世界に輸出している。収穫期は1月の終わりから2月ごろ。花の咲き終わった先端部分を刈り取り、工場に運んで抽出する。耕作面積は直営の農場、契約農家などを併せて1,800ヘクタールにも達しているそうだが、需要が大きいために会社としては新たに除虫菊を栽培してくれる農家を求めている。

春先のケシの花畑と並んで菊の花畑を見物できる場所が今後ますます増えそうだが、実はこの会社は日本のある化学分野の大手企業の傘下に入っていることを最近知った。オーストラリアの南端の小さな事業だが、最先端のビジネスの1つとして国際的に注目されてもいるのだと感じた。オーストラリア大陸から隔離されたようなタスマニアは、小麦のような量産タイプの作物生産には適さないが、モルヒネを作るケシやこの除虫菊のような特徴のある工芸作物を作る場所として期待されている。


千々岩 健一郎(ちぢわけんいちろう)プロフィル
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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