第9回 円は安全通貨?
今回は日本円にスポットを当てて話をします。為替市場において日本円は米ドル、ユーロに次いで3番目に多く取引きされている通貨です。実は日本円が市場では「安全通貨」と見られているのはご存知ですか? 超大国の米ドルが安全通貨なら分かるけれど、なぜ日本円が? と疑問に思う人が多いかもしれません。この疑問にお答えする前に、何をもって「安全通貨」と呼ぶのかをまずお話しします。
世界経済の後退を想起させるニュースが報道されると世界の株式市場は下落しますが、この時に円が他の通貨に対して買われる傾向にあります。2008年のリーマン・ショック時に円が大きく上昇したことを覚えている人も多いでしょう。これが日本円が「安全通貨」と呼ばれるゆえんです。
しかし、長期にわたり低迷する経済成長率や超高齢化社会、巨大な政府債務から想起される日本の経済は、他の国と比較して特別「安全」だという印象は受けません。ましてや、東日本大震災のように日本が直接被害を受けている時に円が多く買われるのは不思議に思いませんか?
これは日本が世界最大の対外純資産国であるためと考えられています。対外純資産とは、国が外国に持つ資産から負債を除いたものです。日本は外国で多くの投資を行い、そこから収入を得ているのです。そのため、世界経済に何らかの大きな不安定要素が発生すると、投資を引き上げて外貨を円に戻すという行動を誘発するというわけです。
もう1つの理由は、日本円が低金利であることによるものです。以前のコラムで、低金利の円を借りて、それを売って高金利の外貨を買う、キャリー・トレードという取引きの話をしました。この取引きは、市場に高揚感がある、いわゆる「リスク・オン」の状態にある時には頻繁に行われます。しかし、いったん市場に不透明感が漂う、「リスク・オフ」の状態になるとこれが巻き戻され、円が買われることで円高になるのです。
日本円が将来も「安全通貨」のポジションを維持できるかどうかは、これらの要素次第と言えます。特に2番目の理由については、現在はユーロも日本円同様にマイナス金利を導入してるため、円の代わりにユーロを使ったキャリー・トレードも増えていくでしょう。また、1番目の理由についても、ユーロ圏の盟主ドイツは日本に次いで対外純資産を多く保有しているので、その額が日本を超えることがあれば、ユーロに「安全通貨」の地位を渡すことになるかもしれません。
KVB Global Markets
取締役日本部門ヘッドチーフFXカスタマー・ディーラー
山田悟