オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第17回 ヒュー・ラムゼー
(Hugh Ramsay)
「Miss Nellie Patterson 1903」
1877年から1906年にかけて活躍したヒュー・ラムゼーは、若くしてその才能を開花させたオーストラリアの写実主義画家の1人だ。
9歳のころにスコットランドからオーストラリアに移住したラムゼーは父の意向に反して、メルボルンのナショナル・ギャラリー・アート・スクールに通い、画家になる道を目指した。
ラムゼーの画家としての才能は、既にオーストラリア人アーティストとして名を知られていた、ジョン・ロングスタッフ、Eフィリップ・フォックス、フレデリック・マッカビンらに見い出され、日の目を見るようになった。
ラムゼーはパリで、オーストラリア人アーティストのジョージ・ランバートに師事。ベラスケスら「オールド・マスター」の作品から学ぶためにしばしばルーブルを訪れたそうだ。その後、パリで国際的な名声を得て、「Académie des Beaux-Arts」の公式アート展「ニュー・サロン」に招待されるなどしたが、ラムゼーの懐事情は厳しいものだったという。
そして極貧の生活は彼の健康をむしばんだ。1902年、パトロンであったオーストラリアの有名オペラ歌手、ネリー・メルバのポートレートを書くためにロンドンへと移住した時、彼は既に結核にかかっていた。ジョン・シンガー・サージェントの肖像画を勉強しながら、しばらくロンドンで過ごしたが、その後、病気の治療のためにオーストラリアへと帰国。しかし願いむなしく、28歳という若さでこの世を去ることとなった。
ラムゼーが描いた対象は彼の家族や既知の画家たち、友人やパトロンだったが、そんな中、珍しく少女を描いたのが今回紹介する肖像画「Miss Nellie Patterson」だ。その抑えた色調、東洋の花瓶の形と象徴的な装飾、オーナーの富を象徴するようなエキゾチックなカーペットなど、ラムゼーらしさがふんだんに盛り込まれた作品だ。
大人用の椅子に、大きなクッションに支えられる形でちょこんと腰かける少女は、ネリー・メルバの姪っ子だ。もし有名な叔母の存在がなければ彼の画題にはならなかったかもしれない。かわいらしい白いドレス、薄く抑えられた色調は、少女の赤い唇、そして蝶結びの髪飾りを浮かび上がらせる。
座り姿勢、絵画に柔らかみ・女性らしさを加える美しく輝く白い布など、本作品には随所に、ベラスケス、ジョン・シンガー・サージェント、ホイッスラーなど、彼が影響を受けた画家の作風が盛り込まれている。
28歳の若さで亡くなったラムゼイのキャリアは短いが、作品はこれからも輝きを持って後世に残されていくことだろう。現在、キャンベラの国立美術館では3月29日までラムゼーの回顧展が開催されている。手掛けた絵画やスケッチブック、手紙など生前の彼を忍ばせるさまざまな資料が展示されているので、ぜひ足を運んでみてほしい。
INSTAGRAM: nationalgalleryaus
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アートの美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Web: www.lmcuratorial.com / ■email: lmcuratorial@gmail.com
■Instagram: @lmcuratorial