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新・豪リークス/新型コロナウイルス禍の中、東日本大震災追悼イベント開催

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現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第33回 新型コロナウイルス禍の中、東日本大震災追悼イベント開催

シドニーで3月6日、東日本大震災発生から9年の追悼と復興支援のイベントが開かれた。オーストラリア国内でも新型コロナウイルスの感染が拡大する中での開催だったが、多くの来場者が訪れた。

◇震災関連映画上映と犠牲者に黙祷

東北の被災者とオーストラリアの支援者の心をつなぎたいとの願いから、東日本大震災が発生した2011年に始まったチャリティー·イベント「TSU-NA-GU(つなぐ)」。9回目を迎えた今年は、第1回目のイベントから主催しているシドニー在住日系人のボランティア·グループ、JCSレインボー·プロジェクトが中心となり、3月6日にシドニー市内の会場で開催された。会場には、新型コロナウイルスの感染拡大から、オーストラリア政府が屋内での100人以上が集まるイベントを禁止する前だったので、地元市民らおよそ200人が参加した。

9回目の開催となった震災復興チャリティー・イベント「TSU-NA-GU(つなぐ)」(3月6日シドニー市内、筆者撮影)
9回目の開催となった震災復興チャリティー・イベント「TSU-NA-GU(つなぐ)」(3月6日シドニー市内、筆者撮影)

震災後、東北の被災地を歩いて訪問した経験を持つオーストラリア·オリンピック委員会エグゼクティブ·アドバイザーのピーター·ギブソン氏が司会を務めた今回のイベント。地震発生時刻の午後2時46分(日本時間)に合わせ、シドニー在住の僧侶、渡部重信氏による読経と1分間の黙祷が行われた。続いて、宮城県豊里地区を舞台に、震災で家族を失った人の孤独死をテーマにした短編映画「ひとりじゃない」(鐘江稔 監督)と、南相馬市の海岸部の地区で、津波と福島第一原発の事故により両親と2人の子どもを失った主人公の男性の5年間を記録したドキュメンタリー映画「LIFE生きてゆく」(笠井千晃監督)の2本が上映された。上映後、主催者の挨拶が行われ、1人のオーストラリア人男性が壇上に招かれた。元ニュー·サウス·ウェールズ州消防隊員のジェフリー·フェル氏だ。震災発生の知らせを受け、オーストラリア災害レスキュー隊員の1人として軍の輸送機に乗り込んだジェフリー氏は、2011年の3月15日に仙台や南三陸町などの被災地に入った。「現場では雪が降り、被災者の持ち物と見られるさまざまなものが散乱していた」と当時の様子を語ったジェフリー氏。言葉を詰まらせ、一旦舞台の袖に下がる場面もあった。「そこにはゴルフ·クラブとかもあったよ。日本人はゴルフが好きだからね」と、何度も潤んだ目を拭いながらオーストラリア人らしくジョークも交えて話してくれた。

◇オーストラリア森林火災復興支援も

元NSW州消防隊員のジェフリー·フェルさん。後方はイベント関係者とボランティア
元NSW州消防隊員のジェフリー·フェルさん。後方はイベント関係者とボランティア

会場では、ずんだ餅などの東北の郷土料理や民芸品なども展示販売された。参加者のオーストラリア人男性は、「だんだん報道も少なくなり、みんな福島のことを忘れている。でもまだ災害は続いていて、このように継続的にサポートするのは良いことだ」と、話した。また、震災前から東北に何度も足を運び、岩手県出身の詩人、宮沢賢治の作品の英訳などで知られるシドニー在住の作家で演出家、第二次大戦末期の沖縄を舞台にした映画「STAR SAND -星砂物語-」の監督でもあるロジャー·パルバース氏も会場を訪れた。「9年前の災害のことは、本当に忘れられません。この国でも最近では山火事や洪水などがあり、やはり気候変動については、とても心配です」と、パルバース氏は大好物だという東北の郷土料理を楽しみながら流暢な日本語で答えてくれた。

シドニー在住の作家で映画監督のロジャー·パルバース氏もイベントに参加した
シドニー在住の作家で映画監督のロジャー·パルバース氏もイベントに参加した

今回のチャリティー·イベントでは、オーストラリアで発生した大規模な森林火災復興支援の寄付も募り、寄付金の一部はニュー·サウス·ウェールズ州消防隊にも贈られた。イベントの主催者JCSレインボー·プロジェクト平野由紀子代表は、「2011年の東日本大震災が起きた時に、ニュー·サウス·ウェールズ州の76人の消防隊員が南三陸町に行き、東北のために救済の活動をしてくれた。その時の恩を返したいのと、震災発生から9年経った今も、遠い南半球のオーストラリアからたくさんの人びと、被災地や東北のために心を寄せていることを伝えたい」と語った。

◇“見えない敵”との戦い

シドニー国際空港を新型コロナウイルス防護服姿で歩く人(3月20日、筆者撮影)
シドニー国際空港を新型コロナウイルス防護服姿で歩く人(3月20日、筆者撮影)

このイベントから約2週間後、新型コロナウイルスの感染は、中国からイタリアを始めとする欧州諸国、米国など世界中に広がった。3月19日、オーストラリアのモリソン首相は、感染拡大を阻止するため、外国人の入国を原則禁止するとした。国民の出国も禁じ、同様の措置を取ったニュージーランドと共に、事実上の「鎖国」状態に入るという事態となった。その後、ニュージーランドは全国規模のロックダウン(封鎖)に入り、オーストラリアも必要不可欠ではないサービスを停止すると発表。国民の不要不急の外出も控えるよう要請した(3月末時点)。

オーストラリアの外国人入国禁止措置決定を受け、シドニー国際空港で取材をした際、原発作業員用の放射能防護服を連想させるいでたちの到着客を目撃した。震災と原発事故発生から9年、いまだに福島の被災地では、放射能といういわば“見えない敵”と戦い続けている。もちろん単純に比較はできないが、いま日本、オーストラリア、そして世界が、まさに新型コロナウイルスという“見えない敵”と戦っている。このウイルスの治療薬やワクチンもない中、デマやフェイク·ニュースに扇動された人びとが、トイレット·ペーパーや食料品などを買いだめし、それらを取り合って争う例が、オーストラリアを含め世界各地で見られる。そして、ついに東京オリンピックの開催延期も決定された。この“見えない敵”は、その感染力や毒性の強さだけでなく、人の心にも感染する強大な“敵”のようでもある。


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
TBSシドニー通信員、FCA-豪・南太平洋外国記者協会会長、豪州かりゆし会会長、やまなし大使など。2019年5月、小説『奇跡の島~木曜島物語』を出版

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