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いけばなを世界に開かれた芸術にしたい - Yoshimi・多田喜巳さん

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オーストラリアの日系コミュニティーで今を生きる、さまざまな人のライフスタイルを追うコラム。

Vol.38 Yoshimi・多田喜巳(ただよしみ)さん

いけばなを世界に開かれた芸術にしたい

「花の街」として知られる兵庫県・宝塚市で生まれ育ち、小さい頃から華道に慣れ親しんできた。2015年から活動の拠点をシドニーに移し、19年にシドニー・オペラ・ハウスで開かれた日本伝統芸能祭に参加するなど日本の伝統文化であるいけばなのオーストラリアへの普及に尽力している。本紙コラム「花のある生活-flower in life-」の筆者でもあるYoshimiさんに、いけばなの魅力について聞いた。(聞き手:守屋太郎)

Photo: Mari Kitamura
Photo: Mari Kitamura

――幼少時代から花に囲まれて育ったのですか?

宝塚歌劇団の所在地である宝塚は別名「花の街」と呼ばれ、歌劇ファンが日本中から訪れます。阪急宝塚駅前から大劇場方向に延びる、1段高くなった遊歩道は「花のみち」と言われ、桜を始め四季折々の風情があります。かつては、ファンや関係者が楽屋に胡蝶蘭などを差し入れする「花入れ」という習慣がありました。その花入れを扱う花屋さんの2階に、母が毎週通っていたいけばな教室がありました。

私は4歳のころから、母のお稽古を待っている間に、花屋さんが屑箱に入れた花を集めて遊んでいました。拾い集めた小花をまとめるのが楽しかったのを覚えています。今でも、お稽古の後に屑切れとなった小さな花を再利用するのが楽しみなのです。

祖母も母も華道に携わっていましたので、幼少期から親元で華道を習っていました。実家の庭には、椿や桜、梅などの花木、山吹や雪柳などさまざまな種類の花や柿や林檎、橙などの実もあり、いけばなに最適な花材の宝庫でした。日舞や茶道など日本の伝統的なお稽古事を習いましたが、私は特に花が好きだったので華道を継続することができました。

子どものころは「お花屋さんになりたい」とは思っていましたが、将来、華道の先生になるとは考えていませんでした。ただ、西洋のきれいな花やガーデニングには関心がありましたので、海外に対する憧れはありましたね。

大学では日本文学を専攻する傍ら、学内にあった華道クラブの流派がこれまで慣れ親しんできた草月流だったこともあり、入門しました。先生とお弟子さんが4年間、丁寧に教えてくださいました。展覧会に出展させていただくなど、良い機会をたくさん与えていただいたことに今でも感謝しています。

大学のゼミでは近代詩を学び、与謝野晶子の詩の背景について卒業論文を書きました。今でも夢に出てくるほど卒業論文を書き上げるのに苦労しましたが、日豪プレスでいけばなのコラムを書かせていただけるようになったのも、当時の勉強が役に立っていると思っています。

――華道を広めようとするようになったきっかけは?

大学卒業後、兵庫県議会事務局に就職し、総務課に配属されました。総務の仕事の傍ら、頼まれて議会のエントランスに飾る花をいけるようになりました。毎週月曜日はお花を生ける時間を頂き、恵まれた時間を過ごすことができました。来訪者に「花がきれいだね」と褒めていただいたり、同僚から花の生け変えを楽しみにしてもらえたのがとても嬉しかったです。周りからはいつしか「お花の人」と呼ばれるようになっていました(笑)。このころ、お花の世界を意識するようになったのかもしれません。

その後、民間企業に転職し、仕事や結婚、育児で忙しくしてはいましたが、長男には本部のいけばなジュニア・クラスに通わせたり、次男にも継続してお花を教えていました。2011年からシンガポールに4年半、住む機会があり、そこで友人に頼まれてお花を教え始めたのが、現在の私の活動の原点になりました。

その友人はとても人間的に魅力のある女性で、周りにはいつも自然と人が集まってきました。このころから、お花を通して人と笑顔で交流できることの喜びを感じ始めました。月に1回、4人に教え始めたのですが、生徒さんが口コミでどんどん増え、週3回、25人以上を教えるようになりました。当時の生徒さんの中には、今は華道教室を始められている人もいます。

――シドニーではどのような活動をされているのですか?

5万人以上が来訪する日本の祭典「祭りイン・シドニー」でいけばなの魅力を発信
5万人以上が来訪する日本の祭典「祭りイン・シドニー」でいけばなの魅力を発信
アジア・オーストラリア・アーティスト協会でいけばなのレッスンを行うYoshimiさん
アジア・オーストラリア・アーティスト協会でいけばなのレッスンを行うYoshimiさん
毎週日・月・火にシドニー北郊セント・アイブスで、いけばな教室を主宰(www.7elements.me)。お稽古後のお茶菓子も好評

15年からシドニーに住んでおります。この街には、在留邦人数が約3万4,000人(17年=外務省調べ)と世界の都市で10番目に大きい日本人社会があり、豪州の多文化主義と豪州人の日本文化への関心の高さによって支えられていると感じています。

現在、週3回、シドニー北部の自宅で華道教室を開き、生徒さんに教えています。さまざまな国籍の人びとが、お互いの作品を鑑賞し合って意見を交換できるのも毎回新鮮な発見があります。

年に3度、シドニー各地で行われている日本祭では、文化芸術部門いけばなワークショップを毎度開催しています。年々増加する来園者の中、毎回いけばなへの関心も高まっていることに注目しています。16年の日本祭から、草月流ASTA(Australia Sydney Teachers Association)がワークショップを提供し、多くの人びとにいけばなを楽しんで頂いております。ASTA所属の豪州人と日本人メンバーが協力し合い、イベントを毎回成功に収め、18年には日豪文化交流促進に寄与したことを表彰され、草月流NSW支部が総領事褒賞を受賞しました。

昨年からシドニーにあるいけばな全流派に参加を募り、昨年12月より3流派が一体となりいけばな芸術の促進に務めました。流派間に共通することをシェアし合い、皆で一体感を持続して発信できました。在留邦人を始め、広く多国籍の人びとにいけばなを楽しんでいただくことができました。

その傍ら、個人の活動としては、シドニー日本人国際学校でのいけばなの実演やワークショップ、アジア・オーストラリア・アーティスト協会の現代アートのキュレーター向けのお稽古、17年にシドニー市内のグレース・ホテルで行われた日本の美食文化祭「華と膳と美と食と」への出演、シドニー・オペラ・ハウスで開かれた「令和元年 日本伝統芸能祭」でのいけばなのパフォーマンスなどを通して、日本文化が持つ美の魅力を豪州の人びとに伝えられるよう努めています。

――Yoshimiさんにとっていけばなの魅力とは何ですか?

花は自分の姿を映し出します。自分の心が整っていないと、鮮やかさのない花を生けてしまいます。花を見て自分を律していく。そんなバロメーターのようなものだと考えています。花の角度や空間構成を考えていると、まるで自分に必要なものと要らないものを取捨選択しているようです。花を通して、仲間と一緒に物事を考えられるのも幸せなことだと思います。いろんな人の考えも感じることができるからです。

いけばなには無限の魅力が秘めていると思っています。目で見て美しいと感じると同時に、心で感じるものであると思います。外国の人びとに日本の伝統的な文化芸術を伝えていくのは簡単なことではないと思いますが、音楽と合わせて美を響き合わせたり、絵画と一緒に展示して芸術性を高めることにより、意識を持っていただけるのではないかと考えています。

私は、いけばなを在留邦人の人びとに広く親しんでもらいたいと思うと共に、国籍や性別に関係なく文化や芸術を通して日本の素晴らしさをオーストラリアに伝えていきたいと願っています。女性のお稽古事という印象が強いですが、男性も気軽に楽しんでもらえるように「男性専科」の教室も始める予定です。

自然に恵まれたオーストラリアには素晴らしい花材がたくさんありますし、もっと花のある生活を楽しんでいただきたいと思います。自然も人も花もすっきりと透明な世界。その透明な世界には、花を囲むように人が集まり、花を通して語らい、人種を超えていけばな芸術を共有すること。いけばなには長い歴史の中で自然を愛し、人を思いやる日本人の心が詰まっています。美しく咲く花々のように、人の持つ魅力をそれぞれが認め合える喜び、日本の伝統的な文化芸術は世界に誇るべき遺産であり、その継承されている文化遺産は今もなお、進化していると思います。開放性を持って皆に開かれた芸術であるためには、いけばなが日々の暮らしの中にとけ込んでいくものであって欲しいと願っています。本紙コラム「花のある生活-flower in life-」では、いつでも誰でもどこにでも、花を生けてもらいたいという想いを込めて、参考写真と共に毎月発信しています。言葉を超えて心で感じ合える豊かな発想こそが、いけばなの美しさだと考えています。これからも日系コミュニティーの皆さんと共に、いけばなをもっと開かれた芸術にしていきたいですね。

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