第79回
コウモリとウイルス
現在、新型コロナウイルスによる感染拡大をせき止めようと、日本を含む世界各国が外出やイベントの自粛、入国制限などの対応策を講じています。中国の武漢で発生したとされる新型コロナウイルス(COVID-19)は、遺伝子解析によりコウモリが由来である可能性が高いとされています。
人獣共通ウイルスの感染源としてコウモリが挙げられるのは今回が初めてではありません。マーブルグ病、ニパウィルス感染症、ヘンドラウイルス感染症、エボラ出血熱、狂犬病、また異なるコロナウイルスによるSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)も、原因となるウイルスはコウモリ由来と判明しています。
そのほとんどが、コウモリから人間に直接感染するわけではなく、中間宿主となる他の動物を介して人間に感染します。例えば、エボラの場合はサル、SARSはハクビシン、MERSはラクダを介した感染が疑われました。
今の時点で、コウモリを含むオーストラリアの野生動物が呼吸器症候群を引き起こすコロナウイルスを有しているという報告や科学的根拠はありません。オーストラリアに生息するコウモリが感染源となり特に注意しなければならないのは、ヘンドラウイルスとリッサウイルスです。
ヘンドラウイルスは、コウモリから馬、そして馬から人へと感染し、肺炎など重度の呼吸器疾患を引き起こします。馬にはワクチン接種を行うことができますが、人間用のワクチンは存在しません。
リッサウイルスは、コウモリから人間に咬み傷を通して直接感染します。狂犬病に似た神経症状、痙攣や攻撃的行動が特徴で、死に至ります。リッサウイルスを宿しているコウモリは全体の1パーセント以下ですが、感染していても症状がないコウモリもいますので、野生のコウモリにはむやみに近づかないのが賢明です。
もしけがをしているコウモリを見つけたら、野生動物保護団体に連絡し、狂犬病予防接種を受けたボランティアさんに保護を依頼してください。どんなワクチンも予防効果は100パーセントではありませんので、噛まれたり引っ掻かれたりしないよう、手袋やマスクなどの防護具が欠かせません。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。