オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第20回 ブレット·ホワイトリー(Brett Whiteley)
「Alchemy」
今回紹介する作品「Alchemy」は、シドニー中心部サリーヒルズに位置している、NSW州立美術館が管理しているブレット·ホワイトリー·スタジオで展示されている。ブレット·ホワイトリー(BrettWhiteley1939–1992)はシドニー出身のオーストラリアを代表する現代アーティストの1人であり、1978年にアーチボルド賞、ウィン賞、スルマン賞など主要な芸術賞を受賞。世界的にも有名なアーティストであり、絵画、彫刻、グラフィック·アートなどさまざまな分野で功績を残している。官能的かつ情緒的な作風で知られ、ヌードを抽象的に描いた絵画を多く制作している。特に有名なのは彼の妻、ウェンディ·ホワイトリーをモチーフにした作品だ。
ブレットは前述したスタジオに87年~92年まで住宅兼アトリエとして住んでおり、現在は未完成
の絵画、ブレットが使用していたアート用具の展示など、アトリエの空気を感じられるギャラリーとして一般公開されている。
「Alchemy」は同スタジオで展示されている最も有名な作品だ。今でも、この作品から「世界中の時代による激変」の表現を見出すことができる。ブレットは、この絵を見た人に与える印象が永続的な影響をもたらすことを知っていたかのようだ。また、この絵はブレット自身の自画像だとも解釈されている。油絵具とさまざまな素材を使用して描かれており、18枚の木製パネルを組み合わせた高さ203センチ×幅1615センチ×奥行9センチの大型絵画である。貝殻の断片、プラグ、更には羽や鳥の巣の一部からガラス、金属などあらゆる素材を使用し、絵画の枠に捉われず彼自身のエネルギーと膨大なアイデアを表現している。
左から右に見ていくと、太陽が爆発しているシーンから始まっている。これは、有名な作家である三島由紀夫が70年に切腹した逸話からインスピレーションを受け、表現したものだという。この作品は、絵画内の「IT」を支点とした中心部からでも、前述したように左から右へ見ていく方法でも構成を読み取ることができる。この構成は、誕生と死の間、海と空の領域から出現する原始的な人間性、調和と対立を根底とした古代錬金術の考えに関連している。ブレットの芸術と創造的な遺産は、間違いなく「Alchemy(錬金術)」である。
The Brett Whiteley studio: Address: 2 Raper Street, Surry Hills, Sydney, 2010
Web: www.artgallery.nsw.gov.au/brett-whiteley-studio
Instagram: brettwhiteleystudio
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。グリフィス大学で美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、サウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Instagram: @lucymilesfineart
■Web: www.lucymilesfineart.org
■Email: info@lucymilesfineart.org