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【新年恒例特集】回顧と展望2019/会計・税務(菊井隆正)

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会計・税務

パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
オセアニア・アジア太平洋地域統括

菊井隆正

プロフィル◎豪州国内で約20人の日本人スタッフを抱える世界4大会計事務所の1つEYのアジア・パシフィック及びオセアニア地域日系企業担当部門代表。在豪20年を超える。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている

政権変更の可能性による税政策シフトの影

企業向けコラボレーション・ソフトウェアで知られる豪IT企業大手アトラシアン社の共同創業者、マイク・キャノンブルックスが2018年9月シドニーの高級住宅地ポイント・パイパーの大豪邸を推定1億豪ドルで購入。オーストラリアの記録を更新したという。ただ、全体的には、これまで数年間強い勢いで上昇を続けていた不動産マーケットは曲がり角に差し掛かり、シドニー・メルボルンでは住宅価格が数パーセント下落した年となった。その背景には、今年実施された王立委員会による調査を受け、不動産ブームを支えてきた銀行が融資審査を厳しくしたことも影響したようだ。相次ぐ銀行業界の不正発覚を受けて政府は銀行や生命保険会社など金融機関を調査するため同委員会を設立。6回にわたる公聴会が実施され、短期的な利益を優先させた不適切なビジネスが行われている実態がメディアでも大きく取り上げられ、業界全体を揺るがす結果となった。同調査を通して、金融機関のガバナンスやカルチャー、リスクに対するモニタリング体制、また幹部への報酬体系の不備が不正行為に関係していたことが問題となり、今回の一連の調査により金融機関に限らずオーストラリアの上場企業全体は今後の企業のあり方を見直す必要性を問われた形となった。

一方、企業マインドは資源輸出が好調なこともあり相変わらずポジティブである。オーストラリア経済は低金利政策の下GDPは堅調に推移しプラス成長を維持しており、オーストラリア企業の大多数が今後12カ月のM&Aマーケットはより活性化すると期待している。18年は不動産、エネルギーや金融セクターにおける大型のディールが目立ちM&A取引額・案件数とも前年より増加した。日系企業による対豪州投資も、豪ドル安や日本の超低金利で資金調達が容易なことから、18年は3年ぶりの高水準となった。また、投資先のセクターは、エネルギー、金融、住宅・商業用不動産、インフラ、人材関連産業など多様化している。

海外からの投資に伴って人の円滑な移動が必要となるが、それを支える就労ビザが18年3月に457ビザからTSSビザに切り替わった。当初はビザ発給の遅延が目立っていたが年後半からようやく落ち着いた模様だ。ただ、これまでの改正で削減された職種の復活など、投資の妨げにならぬよう今後のビザ要件の緩和を期待する。

税務面では当初、現政権が掲げていた主要政策の1つであった法人税率の引き下げが大企業にも拡大することが期待されたが、18年の後半から厳しい政権運営を強いられ、その実現性はほぼなくなった。これにより法人税率の引き下げは全世界ベースでの年間売上が5,000万豪ドル未満の企業に限られる形となった。世界的なトレンドとして法人税率が軽減される傾向にある中、これは残念な結果である。

19年前半に予定している連邦選挙では野党労働党が現在優勢と見られる中、来年以降、連邦レベルでの税政策の焦点は同党の政策にシフトしていく可能性が高いと考えられる。多国籍企業に対する強硬的姿勢を見せる労働党がこれまで発表した中で日系企業に影響を与えそうなのが、豪州税務当局(ATO)による国別報告書の抜粋の強制開示や多国籍企業による利益移転の調査強化に向けたATO職員の増員だ。また、過少資本税制におけるセーフ・ハーバー基準に関する改定も予定されている。

ATOは既に上位1,000社を対象に根拠ある信頼をベースとした税調査プログラムを推進しており、年間売上が2億5,000万ドルを超える多国籍企業については今後2年以内にこの税調査の対象となる可能性が高い。

会計では、新たなリースの国際会計基準となるIFRS16号が19年1月1日以降開始する事業年度から適用される。これまでオペレーティング・リースはリース料を費用として計上していたが、今後ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別がなくなり、貸借対照表上に「使用権資産」及び「リース負債」を認識する単一のオンバランス・モデルを採用するという大きな変更となる。オペレーティング・リースとして会計処理をしていた場合、新会計基準導入を踏まえた予算策定や今後の事業プランの検討が必要になる。

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