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【オーストラリアの「牛肉」事情】(おいしいレストラン情報付き)②

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特集

オーストラリアの
「牛肉」事情

−2019版−

和牛料理提供のアイディア

オーストラリアでは一般的には牛肉はステーキで食べるというのが主流だ。しかし、和牛の特徴でもある霜降りは、同時にオーストラリア的な感覚でステーキで食べる際には諸刃の剣にもなる。和牛はその凝縮された味わいを少量楽しむというのが最も適した食べ方であり、パブやレストランなどで食べるステーキの様な感覚で300グラム、400グラムの量を食べるという食し方にはあまり向かない。日本国内でも、ステーキであればレストランのコース・メニューのメインとして80~100グラムくらいの量を食べるのが一般的だ。

買った和牛はそのまま焼くのであれば七輪などの炭火焼がお薦めだと大沢氏は話す
買った和牛はそのまま焼くのであれば七輪などの炭火焼がお薦めだと大沢氏は話す

そうした特性から、本来であれば前段でアンソニー氏が言ったように、「和牛の特性を知ってもらう」ところから教育を始める必要がある。大沢氏も「和牛を初めて購入するお客には例えば七輪で炭火焼にするなどという食べ方を推奨している」というが、そのように和牛の特性を理解させ、更に家庭での調理法まで教育するのはやはり時間が掛かるだろう。

そんな現状に対し「和牛をこちらでしっかりと浸透させていくには、食べてみておいしいと感じてもらうためのアプローチが大切。そのために私たちシェフが頑張らなければならない」と話すのはシドニー東郊ダーリングハーストに店を構える日本食レストラン「Gaku Robata Grill」の花倉嗣文シェフだ。花倉シェフはARIAなどを始めとしたファイン・ダイニングで活躍した後、有名フレンチ・シェフとして名を馳せてきた犬飼春信氏と共に18年に同店を立ち上げた。

多くの店が日本産和牛の価格の高さに対して二の足を踏む中、同店では和牛を使ったメニューを3品提供している。

「いつも直接大沢社長のところに和牛を買いに行っていますが、価格が高い上にステーキ以外に使い道のアイデアがないので手を付けられないという人がほとんどだと聞いています。僕としては、日本産和牛は牛肉とくくるよりもいっそのこと別の物だと思ってもらった方がいろいろアイデアも出てくるのではないかと思っています」(花倉)

人気日本食料理店「Gaku Robata Grill」で提供されている「和牛ラーメン」は絶品
人気日本食料理店「Gaku Robata Grill」で提供されている「和牛ラーメン」は絶品
「Gaku Robata Grill」の日本産和牛のすし。繊細かつ濃厚な味の和牛は酢飯との相性も抜群
「Gaku Robata Grill」の日本産和牛のすし。繊細かつ濃厚な味の和牛は酢飯との相性も抜群

そう考えた花倉シェフは和牛をラーメン、すしと共に提供するメニューを考案した。「和牛ラーメンはスープをクリアですっきりとしたものにすることで、和牛の味わいをしっかり感じられるように仕上げています。その一方で、特製のブラック・ペッパー・ソースを合わせることでオーストラリア人のノスタルジックな肉に対する感覚と結び付けるなどという工夫もしています」(花倉)

元々ラーメンの研究に余念のない同店の和牛ラーメンは香味油にも和牛の牛脂をうまく使うなどかなりのこだわりで、仕上がりは掛け値なしにハイクオリティー。価格は30ドルとラーメンとしては高いと思う読者もいるかもしれないが、和牛のうまみを凝縮したその1杯は上品、かつ味わい深くその値段を決して高いとは感じさせない。

和牛のすしに関しては大トロのすしを想像してもらえればその味わいを想像できるはずだ。同店ではステーキとしても食べてみたいという人向けにステーキも用意しており好評だというが、初めて和牛を食べた人の反応はラーメン、すしを食べた時の方がより高いそうだ。日系の店で和牛を出している店は現時点ではほとんどないので、興味がある人はぜひ一度訪れてみてはいかがだろう。

オージー・ビーフの魅力

さて、ここまで輸入解禁で話題となっている和牛を話題の中心に書いてきたが、ここからは従来のオーストラリアの「牛肉」事情について紹介していこう。

昨今の健康嗜好に伴う赤身肉ブームによって再び脚光を浴びるようになったのが「グラス・フェッド」と呼ばれる牧草育ちの牛だ。広大なエリアに放牧された牛はのびのびと自由に動きまわりながら牧草を食べて育つため、脂肪分が減り赤身の多い肉質となる。

グラス・フェッドの牛肉は肉の味をしっかり感じられる一方で、脂肪分が少なく硬いという側面を持つ。だが、栄養分を豊富に含んだ牧草で育った牛は、香り高く柔らかい牛肉になるという。近年、スーパーの食肉売り場でも「Grass Fed」とパッケージに目立つように書かれた商品も目立つようになった。これは穀物肥育の牛が市場では主流となっていることの裏返しとも言えるかもしれない。

健康志向の高まりから脂の少ないグラス・フェッドの牛肉をあえて好む者も増えているそうだ
健康志向の高まりから脂の少ないグラス・フェッドの牛肉をあえて好む者も増えているそうだ
飼料に使う穀物も味に大きく影響し、とうもろこしを使うと脂の甘みなど風味が増すという
飼料に使う穀物も味に大きく影響し、とうもろこしを使うと脂の甘みなど風味が増すという

元々国土の北半分が亜熱帯性気候のオーストラリアでは、こぶ牛と呼ばれる暑さに強い種類の牛が多く、それらの赤身肉が安価で大量に流通していたという過去がある。しかし、時代の変遷に伴い、アンガス牛やマリーグレー牛など良質の英国種が国内で多く育てられるようになった。そうした時代の流れの中、更に肉質を柔らかくするために、フィードロットと呼ばれる囲いで仕切られたエリアで穀物肥育する方法が増えてきたという。

そんな中、あえてグラスフェッドとしてブランド化している高級グラスフェッドの多くは滋養の高い牧草が生えるとされるビクトリア州やタスマニア州などで育てられており、品質の良い物になると牧草育ちにもかかわらずサシが入っているものもあるという。グレイン・フェッドの肉は世界中で食べられるが、高級なグラス・フェッドは世界的にも珍しい。一度は試してみると良いだろう。

オーストラリアの牛肉業界でも穀物肥育が増え始めるなどカルチャーが変わりつつある中、その動きに注目しオーストラリアに進出した日系企業がある。進出以来、オージー・ビーフの世界的な普及に貢献をしている総合商社の丸紅だ。

丸紅は1988年にQLD州との境目に近いNSW州のレンジャーズ・バレーに出資し、長期穀物肥育のブラック・アンガスの飼育を始め、2000年からは豪州産WAGYUの出荷も開始。その後、豪州産WAGYUの世界的な需要の高まりに応じて13年ごろからはその肥育規模を大きく拡大させた。同社の食料部長の加田佳三氏はその経緯をこう話す。

今や街中でも「WAGYU」の文字はよく見られるようになっている
今や街中でも「WAGYU」の文字はよく見られるようになっている

「この数年、豪州産WAGYUに対する引き合いがかなり高まりました。海外からの需要の伸びに加え、豪州国内からのニーズも大きく膨らみました。豪州産WAGYUは肥育を開始してから出荷できるまでには1年以上の時間を要してしまうのですが、この3年ほどはかなりのペースで豪州産WAGYUの比率を高めてきました。今でもレンジャーズ・バレーの主力商品がブラック・アンガスの長期肥育であることには変わりはありませんし、安定した非常に高い人気を誇っていますが、豪州産WAGYUの比率も年々高まっています」(加田氏)

レンジャーズ・バレーでは、ブラック・アンガスを270日と長期間にわたり肥育するなど、豪州国内でもユニークなオペレーションを行っているが、豪州産WAGYUについては、更に長い360日の肥育期間を設けている。

加田氏は「レンジャーズ・バレーで肥育している豪州産WAGYUは、血統を管理した厳選した農家から素牛を調達し、常に最適な栄養価を計算した飼料設計で育てるなど品質の向上にも尽力している」と胸を張るが、日本市場に向けての輸出は、ほとんどがブラック・アンガスだという。

シドニー北郊ノース・ブリッジの「東京マート」で売られていた鹿児島産和牛
シドニー北郊ノース・ブリッジの「東京マート」で売られていた鹿児島産和牛

長期肥育の豪州産WAGYUと日本の国産牛では価格帯が競合することや、食に関して保守的な人が少なくない日本の消費者にとっては「オージービーフ」という表記よりも「国産牛」という表記の方が安心というイメージが根強く、豪州産WAGYUへの理解を深める啓蒙活動やマーケティングが課題となっているからだという。

また、豪州産WAGYUを生産している側の立場として日本産和牛の輸入解禁についての意見を伺うと「日本産の和牛が入って来ることで消費者にとって更に広い選択肢ができるのは喜ばしい」と肯定的な回答を口にする。

「価格帯も違いますし、それぞれの特徴が違うことから、食べ方やシチュエーションも違うものだと思っています。日本の和牛がオーストラリアに入り、WAGYUの知名度が上がることで、豪州産WAGYUがこれまでより身近なものとして、日本産和牛は特別なハレの日に、というような選択をできるようになるのが理想的だと考えています。昨今、ありがたいことに豪州国内も含めた世界各国でのレンジャーズ・バレーの知名度は上がってきています。そのブランドをきっちりと維持するためにも、品質については弊社も妥協せずに良い物を作り続けなければならないと思っています」(加田氏)

レンジャーズ・バレーのステーキをシドニーのレストランで食したければ、ロックスのパークハイアット・シドニー内にある「The Dining Room」、シドニーCBDにある「Chop House」や「Kingsleys Steakhouse」、また他都市ではブリスベンの「Walter’s Steak House」、「Otto」、「Moo Moo the Wine Bar and Grill」などに足を運んでみると良いと加田氏は話す。「ぜひ、レンジャーズ・バレーの豪快なトマホーク・ステーキを家族や仲間の皆様と楽しんでいただければと思います」(加田氏)

シドニー東郊の高級住宅街「ビクター・チャーチル」やフィッシュマーケット内の「ビックス・ミート」でも日本産和牛の販売が開始
シドニー東郊の高級住宅街「ビクター・チャーチル」やフィッシュマーケット内の「ビックス・ミート」でも日本産和牛の販売が開始
ビクター・チャーチルでは数多くの種類のオーストラリア産WAGYUも店頭に並んでいる
ビクター・チャーチルでは数多くの種類のオーストラリア産WAGYUも店頭に並んでいる

レンジャーズ・バレーの肉はシドニー東郊の高級住宅街ウラーラにある「ビクター・チャーチル(Victor Churchill)」やシドニー・フィッシュ・マーケットの中にある「ビックス・ミート(Vic’s Meat)」にも置かれている。また、同店では日本産和牛の販売も開始する。

オージー・ビーフに加え、日本産和牛と選択の幅が増えたことはわれわれ消費者にとっては喜ぶべきこと。牛肉大国とも言えるこのオーストラリアの地で、和牛がどのような形で受け入れられ広がりを見せていくか、引き続き興味を持って見守っていきたい。

マーブリングと牛肉の部位

牛肉の選ぶ際の指標として覚えておきたいものの1つにBMS(Beef Marbling Standard)と呼ばれる「脂肪交雑(マーブリング)」を評価するための基準がある。いわゆるサシの細かさによるランク分けでオーストラリアは全12ランク、数字の高い方がスコアが高い。オーストラリアでは9以上は「9+」と表示される。日本国内の肉質等級では、1の場合はマーブリングがNo.1、等級2がマーブリングNo.2、等級3がマーブリングNo.3~4、等級4がマーブリングNo.5~7、等級5がNo.8以上となっている。レストランでステーキを選ぶ際の参考にするといいだろう。

  1. ①肩ロース(Chuck Roll):適度に脂肪がのった部位で、きめが細かく柔らかいのが特長。薄切り肉にしてしゃぶしゃぶやすきやきなど幅広い料理に利用できる。
  2. ②肩肉(Clod):肉質はやや硬めだが、霜降りの柔らかい部分と赤身の部分があり風味が良い。鉄板焼きやすきやき、煮込み料理などに適している。
  3. ③リブロース(Rib Eye Roll、又はScotch Fillet / Cube Roll):ステーキに良く使われる部位としては最も霜降りが多く、きめ細かい肉質と柔らかい風味で焼き肉の定番。肉その物を味わうステーキや焼き肉料理に向いている。
  4. ④サーロイン(Sirloin、又はPorter House / Striploin):ステーキの代表部位。やわらかく脂肪分が少ない肉質で、霜降りが奇麗で大きい。しゃぶしゃぶやロースト・ビーフとしても最適。
  5. ⑤ヒレ(Tenderloin、又はFillet):非常に柔らかい肉質で脂肪が少なく上品な味が特徴。牛の枝肉の3%しか取れないサーロイン、ロースと並ぶ高級部位で、ステーキに適している。
  6. ⑥ランプ(Rump):肉のきめが細かく非常に質の良い柔らかな赤身肉。脂肪分が少なく、ステーキや焼肉、すき焼き、しゃぶしゃぶなどに合う。
  7. ⑦内モモ(Top Side):最も脂肪分が少ない赤身の肉で、あっさりとした風味が特徴。カレーやシチューなどの煮込み料理に適している。
  8. ⑧外モモ(Outside):キメが粗くモモより少し硬めの部位で、味が濃い。カレーやシチューなどの煮込み料理にはもちろん、ひき肉にも最適。
  9. ⑨バラ(Brisket、Navel end Brisket、Flank):前足に近い「肩バラ(Brisket)」、後足に近い「トモバラ(Navel end Brisket = Short Plate)」「前バラ(Point end Brisket)などからなる部位。両方とも濃厚な風味で、薄切りにして牛丼や焼き肉用に利用される。その他、Chuck Short Rib、Short Ribなどもバラに含まれる。
  10. ⑩シンタマ(Thick Frank):内モモの下側にある部位で、柔らかくきめの細かい赤身肉。脂肪分は少なく、ロースト・ビーフやタタキに使われることが多い。

取材協力(※五十音順。敬称略)

アンソニー・プハリッチ(ビックス・ミート)
アンソニー・プハリッチ
(ビックス・ミート)
左から犬飼春信、花倉嗣文(Gaku Robata Grill)
左から犬飼春信、花倉嗣文
(Gaku Robata Grill)
大沢紀三夫(大沢エンタープライズ)
大沢紀三夫
(大沢エンタープライズ)
加田佳三(丸紅オーストラリア)
加田佳三
(丸紅オーストラリア)
Photo: Naoto Ijichi
土屋修久(在シドニー日本国総領事館)
土屋修久
(在シドニー日本国総領事館)
藤原琢也(ジェトロ・シドニー事務所)
藤原琢也
(ジェトロ・シドニー事務所)

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