法律
Q
レストランでウェーターとして2年ほど働いていました。ある日突然、雇用主から「お前、昨晩レジから現金を盗んだな。監視カメラにもそれらしき様子が映っている。クビだ。今すぐ出ていけ」と言われ、ぬれぎぬだと説明する機会を与えられずに解雇されました。これは不当解雇に当たりますか。(25歳男性=ウェーター)
A
原則的に、従業員が職務に関連して重大な不法行為(Serious Misconduct)を犯した場合には、雇用主はその従業員を通知なく即時解雇することができます。しかし、どういった行為が即時解雇理由となるのかの判断は時として難しく、また、その不法行為の証拠の有無も問題となり、そのような理由で即時解雇された従業員から、雇用主が逆に不当解雇で訴えられるというケースもあります。
今回のケースのような窃盗は雇用法上の「Serious Misconduct」に当たり、それは即時解雇の理由としては正当なものと判断できます。ただし、もしもそれが「ぬれぎぬ」であり、かつ釈明の機会を与えられずに一方的に解雇されたというのでは、これは不当解雇となる可能性が高いと思われます。今回は監視カメラに映像が残っているということですが、雇用主はこれを当該従業員に見せ、申し開きの機会を与えて、お金の窃盗の事実を確定させた上で解雇の判断を下すべきです。
ちなみに、「Serious Misconduct」には窃盗や横領着服以外にも、詐欺、職場における暴力、泥酔、違法薬物の使用、服務規程違反、職場の安全を脅かす行為、会社の生産性や評判を著しく害する行為などが含まれます。社長についての悪口を記したメールを同僚や取引先に送ったということも、「Serious Misconduct」に含まれるとした判決もあります。
ただし、会社が従業員15人未満の“Small Business”である場合には、従業員の解雇が比較的容易になるような規定をオーストラリアの雇用法は設けています。「Serious Misconduct」を理由とした従業員の即時解雇についても同様で、Small Businessが従業員を即時解雇する場合、その重大な不法行為につき「即時解雇に値する不法行為を行ったということが十分に疑われる余地」があれば、実際にその不法行為があったことを立証しなくても、即時解雇が可能だとされています。
「Serious Misconduct」の疑いで従業員が解雇された際、その不法行為の疑いにつき「しっかりと調査がされたのか」、また「十分な申し開きの機会が与えられたのか」が問題となった過去の裁判において、雇用主であった会社がSmall Businessであったため、「大会社に求められるほどの調査・手続きが踏まれる必要はなかった」とされ、元従業員の不当解雇の訴えが退けられたケースがあります。また、仕事時間外に職場の外で違法薬物を過度に使用するなどして病院に担ぎ込まれた従業員を解雇したケースにおいても、通常であれば不当解雇になり得る解雇が、Small Businessであったために、その解雇は正当であったとされた判例もあります。
今回のケースでも、このレストランがSmall Businessであり、監視カメラの映像がそうした「十分に疑われる余地」という条件を満たしていれば、即時解雇は正当なものであったとされる可能性が高いと思われます。
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林 由紀夫(はやし ゆきお)
H&H Lawyers
横浜市出身。1972年来豪。78年ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部卒(法学士、法理学士)。79年弁護士資格取得。同年ベーカー&マッケンジー法律事務所入所。80年フリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所入所。84年パートナーに昇格。オーストラリアでの日系企業の事業活動に関し、商法の分野でのさまざまなアドバイスを手掛ける