福島先生の人生日々勉強
感応道交
かつてお釈迦様が説法の際に一輪の花を皆に示し、何も言葉を話されなかった時、弟子の1人である摩訶迦葉(まかかしょう)のみが、その心を理解し微笑みを返した、という故事があります。
人と人が互いに心が通じ合う時、言葉は要りません。あちらからこちら、こちらからあちら、自由に心が行き交うことができます。このように、自由に心が通じ合うことを「感応道交(かんのうどうこう)」と言います。認知科学的には、ホメオスタシス(恒常性)の同調作用で起きる現象です。
ところが、普段、私たちの心は自分で思っている以上にかなりわがままです。自我が邪魔をして、なかなか自分以外の人に心を開くことができません。なかなか開くことのできない心を何とかして開き、他者と通じ合うために努力を繰り返しながら生きているのです。
自分が自分という心を離れ、本当にピュアな気持ちになれた時、相手の心がすっと入ってきます。こちらの心もすっと相手の心の中に入っていきます。これが感応道交の世界です。
自分の命と他の命は同じものであり、どこかでつながっているという無意識の感覚。他の命への共感、生命感覚を持っているからこそ、人は人の苦しみに涙し、思いやることができ、人を愛することができます。
人を含め、私たち動物は大地から生まれ、大地に還っていきます。人間も大地と空の間を巡る命の1つの形にしか過ぎません。もっと謙虚に、地球に溢れる命の豊かさを見つめ、その中の1つの命を頂いた自らも大切にしていきたいものです。
そして、時には日常の思考の癖を手放し、孤独なわがままな心を脇へどかして、心の交流をしてみてください。
相手は人でなくても構いません。空を見上げ、深く呼吸し、水や風や小さな生き物に親しみ、じかに感じてみてください。命と命の触れ合いを通してのみ、命への感覚を磨くことができるからです。
この世に全く単独で存在しているものなど、1つもありません。相互に関係し合って存在しているのがこの世界です。周りの世界があってこそ、現在の私たちがあります。私たちは世界の一部であり、そこから離れて存在することはできません。
この世界の全てが、「あなた」であり、「私」なのです。多くの魂と命に包まれて生きている自分を感じた時、そこから感応道交の世界が始まります。
いつかは消えていくこの命、消えていくものであるからこそ大切に、力一杯輝かせたいものです。
自分の中にあるピュアな心に気付きましょう。見失ったなら、また何度でも取り戻しましょう。
教育専門家:福島 摂子
大阪府出身。33年間、教育に携わり、教育カウンセリング・海外帰国子女指導を主に手がける。1992年に来豪。シドニーに私塾『福島塾』を開き、社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命として、幼児から大学生までの指導を行う。2005年10月より拠点を日本へ移し、日々活動の幅を広げていく一方で、オーストラリア在住者に対する情報提供やカウンセリング指導も継続中である。