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【今さら聞けない経済学】国の対外取引について―国際収支とは何か

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第45回 一国の対外取引について―国際収支とは何か―

日産自動車・ゴーン元会長の事件

先日、日本中をあっと驚かせるような出来事が起きました。恐らくオーストラリアに滞在・居住している皆さんも、その出来事にさぞびっくりされたことでしょう。

それは、日本を代表する自動車会社「日産」のカルロス・ゴーン元会長が、警察に逮捕されるという極めてショッキングな事件の発生です。

ゴーン氏は今から約20年前、厳密には1999年に「半分以上」潰れかけていた日産を、すさまじいスピードで正常に回復させたのです。それどころか、フランスの自動車会社・ルノーと、不正検査疑惑が浮上し半分以上潰れかけていた三菱系の自動車会社を傘下に収め、立派に立ち直らせました。日産自動車と共に3つの会社が生産する自動車台数は優に1,000万台以上になり、トヨタを抜いて日本では首位となったのに加え、世界の自動車産業でも第2位という地位を占めるにまで至ったのです。それを成し遂げたのが、ゴーン氏だったのです。

ゴーン氏は、表向きは年間約10億円という給料を受け取り、裏ではその倍の給料をもらうという約束で仕事をしていたのです。その「裏金」が、法律に違反していた、ということで警察に逮捕されることになったのです。つまり、逮捕容疑は「有価証券記述違反」なのです。

企業は、「今年はこのような事業を展開し、これだけ利益を上げ、これだけの給料を何人の役員に支払いました」という、言わば会社の業績証明書を発行しなければなりません。この証明書が「有価証券報告書」と言われ、株式を上場させている会社は必ず発行しなければならないのです。つまり、企業は社会に対して責任があるのです。そこで会社は事実をありのままに記載し、世の中に知らせなければなりません。当然、その報告書に「虚偽」を記すと罰せられます。世の中の人びとは、その報告書の記述を信用し、会社の株式を購入したりするからです。

その中で、ゴーン氏は表向きの給料が10億円、「裏」では更に10億円もらうという約束をしており、これはまさに虚偽の申告になります。それが「ばれて」警察に逮捕されたということなのです。もちろん、これらの報告書を出す時には公認会計士や監査法人の「お墨付き」が必要です。そこでも、ゴーン氏は「虚偽」の証明書を提出していたということになり、警察に逮捕される羽目になったのです。

国際収支とは何か

さて、今月号のテーマに移ります。

どの国も自国だけで生きていくことはできません。必ず外国との取引を実行しながら自国の繁栄を図ります。例えば、日本は典型的な「無資源国」ですが、世界でも高度に進んだ工業国として知られています。それは、資源・原料を世界からどんどん輸入しているからです。また、日本の企業が生産した製品を世界に輸出して外貨を稼ぎ、それを元にして更に外国から資源・原材料を購入し生産を拡大する、という方式で日本の経済は成り立っています。

そこで、日本が外国と取引する時、さまざまな項目に分けてその収支を明記します。先述したように、日本は原材料を輸入し、生産した財を輸出します。これを「貿易財」と言います。また、世界と取引をする時、財を輸出しますが、それらを運ぶために船や飛行機を使います。それを「サービス」と呼びます。ここでの“サービス”という言葉は、私たちにはあまりしっくりくる言葉ではありません。これまで何度も見てきたように、国内総生産(GDP)とは、「その国で、ある一定期間内に生産された財とサービスの総額を意味する」としていますが、その都度、「サービスとは何ですか」と質問されます。

「サービス」は、日本語で「用役」と言われますが、用役と言うと更に何のことか分からなくなってしまいます。例えば、私は大学から給料をもらいますが、それは「教える」という「仕事=サービス」に対してもらっています。これもGDPの一部となります。また、日本のプロ野球選手が大リーグで活躍し高額の報酬を得ます。それもまさにサービスの対価なのです。

日本は財を輸出・輸入する際、外国の輸送手段に頼っているのが現状です。従って、財の取引が増大するにつれ、外国への輸送手段として運賃を多く支払う、ということになります。日本は、生産財を多く輸出し外貨を稼ぎますが、財を輸出する手段は大幅に外国に頼っています。

また、たくさんの日本人が海外旅行をする時、多くの外貨を持ち出すことになります。逆に、多くの海外の人たちが日本へ旅行に訪れると外貨が入ってくることになります。これが、サービス取引となります。現在の日本では、流行りの言葉で「インバウンド」と呼ばれる旅行客が増大し、この点においては「サービス収支」が潤うことになります。

そして、貿易財とサービスの取引の一覧表を「経常収支」と言います。

日本は外国とお金のやり取りも随分活発に行っています。例えば、外国企業の証券を購入したり、企業に資本参加したりする時に海外へお金を送ります。これを「証券投資」と言います。また、外国に子会社を設立するために送金したりすることを「直接投資」と言います。つまり、外国と金融取引をしており、それらの収支を「資本収支」と呼びます。

「経常収支」と「資本収支」の2つを一覧表にしたのが、「国際収支」です。日本では英語で「Balance of Payments」と呼んでいますが、「支払い」を示すのは「payments」であり、収支とは支払い・受け取りを示すことから「payments」はおかしいと言われ、アメリカでは「International Transaction」と言われています。

外国為替相場の変動と国際収支の関係

外国為替相場については、これまでに何度も見てきました。外国為替相場は、日本の輸出と輸入との関係、更に資本取引の関係によって決められるのです。

円とドルに限って見てみると、国際収支との関係が切っても切れない関係であることがよく分かります。ドルと円の取引は、外国為替市場で実行されますが、それは輸出と輸入との関連によって実行されるドルの売買によって行われるのです。

外国為替相場制度は、1973年以降、変動相場制(英語ではフロート制)になりましたが、ドルは○○円という相場はドルに対する需要と供給によって外国為替市場で決まります。

日本から輸出が増大し、その支払いとしてドルが輸出業者に入ります。日本のその業者は、関連企業への支払いや、従業員への支払いなどのために日本の通貨、円が必要です。そこでドルを売り円を買う、ということをしなければなりません。その売買を担ってくれるのが、企業が取引している銀行なのです。その銀行もドルを売って円を買うことが必要です。その時に、1ドルが○○円というドルの値段(ドル相場)が立つことになります。もちろん、ドルと円の取引なので、ドルをどうしても売りたいということであれば、ドルの供給は増大し、ドルの値段(ドル相場)は下がることになります。

逆に、ある輸入業者が石油を大量に輸入したとすると、ドルでの支払いが必要なので、その企業は銀行でドル送金をお願いします。すると銀行は円を売ってドルを買い、海外へ支払いを済ませます。外国為替市場では、円の供給が増大し、ドルの需要は増大します。つまり、「ドル:需要>供給」という状態になり、ドルの相場は上昇します。「ドル高:円安」の状態になります。

このようにドルと円との関係は一国の輸入と輸出の関係によって決まり、外国為替に対する需要と供給によって相場が決まるのです。

1ドル=360円とは、誰が決めたのか

ドルの値段は、1970年代の初めまで「固定相場制」だったため、ドル相場は幾ら(1ドル=360円)と固定されており、国際収支の変動によってドル相場が変動するということはありませんでした。従って、輸出と輸入によって必要となるドルの値段(相場)が変化することがなかったので、いわば「やりやすい」状態だったのです。

更に、1ドルが360円と決まったのは、第2次世界大戦終戦後の超インフレを収めるために、当時占領軍マッカーサー最高司令官の特別顧問として日本経済の建て直しに尽力していた、アメリカの銀行家・ジョセフ・ドッジの発案で1ドルを360円と固定相場にした、という話が残っています。ドッジ氏が、なぜ1ドルを360円に設定したかについては定かではありませんが、「円」は丸い、丸は360度だ、そこで1ドルを360円にしよう、という話がまことしやかに語り継がれています。

もしそれが事実であれば、日本人はドッジ氏の「配慮」に感謝しないといけないかもしれません。なぜなら1ドル=360円というドル高・円安の相場で固定化したことにより、日本が生産する財の輸出価格は極めて低くなり、それが元で日本からどんどん世界、とりわけアメリカへ輸出が増大したからです。それによってドルが日本へ入り、そのドルで生産に必要な石油や石炭などの原材料を輸入し、更にそれらを製品に仕上げて輸出を増大させていったからです。

今回は冒頭で、世界でも超有名な産業人の「悲しい話」から始めました。人間はどこまで貪欲なのでしょうか。それともどんなに満ち足りても、もうこれで良い、ということはないのでしょうか。これぞまさに人間の性(さが)でしょうか。つくづく考えさせられる事件でした。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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