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本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第3回 本物の証明

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本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第3回 本物の証明

Photo: Moto
Photo: Moto

初めてのAリーグでのシーズンのほぼ3分の1を終えた本田圭佑。開幕以来およそ2カ月、日本のレジェンドが与えたインパクトは大きく、今やリーグを代表する選手として注目が集まっている。11月25日シドニーFC戦から12月14日に行われた第8節ブリスベン・ロア戦までの活躍を振り返る(文中敬称略)。
文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

止まらないフル・スロットル

本田圭佑が止まらない――。

これまで何度となく書いたが、本田の豪州挑戦が決まって以来、ひと時もAリーグでの活躍を疑ったことはない。彼ほどのハイプロファイルの選手が、現役バリバリでやって来る。しかも、32歳という年齢で加入直前まで日本代表の一員としてW杯に出場して活躍を見せていた。そんな選手がAリーグで活躍しないはずがない。

それでも第8節終了時点で全試合にフル出場、5得点3アシストという成績は予想以上だ。いくら、本田ほどの選手でも新しい環境に慣れるのは少し時間が掛かると思っていた。だが、予想に反していきなり序盤からフル・スロットルで、これには正直脱帽している。

豪州サッカー界が認めたクオリティー

本田がピッチ上で見せた活躍は、早速ピッチ外での表彰という形で認められた。豪州プロ・フットボーラー協会(PFA)が選ぶ10・11月の「月間MVP」に選出されたのだ。12月4日の時点で、それぞれ出色(しゅっしょく)のパフォーマンスを見せる現役の豪州代表クラスのクリス・イコノミディス(パース・グローリー)、クレイグ・グッドウィン(アデレード・ユナイテッド)の両名と共に3人の候補者の1人としてノミネートされた本田。この候補者は、元選手やメディア関係者などで構成される選考委員会によって選ばれる。そして、その候補者の中から月間MVPをPFA会員である現役選手の投票で選出する流れだ。

この形式で、本田が月間MVPに選ばれたことは非常に意義深い。というのも、これは実際にピッチ上で戦った、または同じプロ・サッカー選手として同じピッチでボールを追う選手の実感としての“生の声”が反映されているからだ。投票結果の詳細は公表されないが、恐らくは他を寄せ付けない集票だったのではないだろうか。それだけの大きなインパクトを、本田がピッチ上に残したことの証左が投票に現われているはずだ。

何よりも「優勝」のために

メルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)の公式サイトに、PFA役員で元代表選手のサイモン・コロッシモからトロフィーを授与される本田の姿がアップされていた。名前を呼ばれ、「ありがとう」と握手してトロフィーを受け取り席に戻ろうとする本田に「何かひと言」と声が掛かり、即席スピーチを求められた。

このスピーチ、Aリーグ公式の記事上ではやや“意訳”されていたので、ビデオに上がったままを訳出しておこう。

「(月間MVPに選ばれたことに)驚いている。受賞はとてもうれしい。でも、受賞よりもチームが試合に勝った時の方がもっとうれしい。前の試合では、ゴールもアシストもできなかった。正直なところ、ゴールを決める方がもっとうれしいのが僕という人間だ。受賞には感謝している。これをもらえたのは皆のお陰だ」

個人のトロフィーよりも、勝ちたい、ゴールを決めたい――。本田は、この飽くなき向上心に支えられている。結果にコミットする姿はファンのみならず、豪州フットボール界を今まさに動かしている多くの人びとを魅了し始めていることだけは間違いないようだ。

27試合しかないリーグ戦で、残り3分の2ほどの日程をこのペースで活躍し続けられれば、シーズンを通しての月間MVP投票結果に基づき選考される「年間MVP」の獲得も夢ではない。しかし、そんなことに拘泥(こうでい)する本田ではない。彼が欲するのは個人タイトルではなく、勝利の究極形である「優勝」。日々のたゆまぬ努力は、全てその実現のためにあるのだ。

第5節(11月25日)、敵地シドニーで行われたシドニーFCとの“ビッグ・ブルー”と呼ばれるナショナル・ダービー。この試合は、本田にとっては、大きな意味を持つ試合になったに違いない。というのも、この試合は2週間のインターナショナル・ブレイク明けの初戦。各国の代表に招集される選手は、その期間はそれぞれの代表チームに合流して活動するので「ブレイク」と言っても体を休められる訳ではない。むしろ移動などでのフィジカルの負担が伸し掛かってくるのでデメリットとなるケースが多い。

本田の場合は、「選手」ではなく「監督」としての責務で、フィジカル面だけでなく、メンタル的にも休まることがないはずだ。自身もブレイク前に負ったけがを抱えながらの監督としての2連戦は、周りが想像する以上に厳しいものだったに違いない。

だからと言って、ビクトリーに選手として戻った試合で低調なパフォーマンスを見せることもできない。この2週間のブレイク明けのタイミングで精彩を欠けば、「ほら、見たことか」と監督業との兼業の「弊害」を声高に叫ぶ輩が必ず出てくる。たとえ、それが1試合だけであっても……。

本田には日本代表時代、短期間のうちに欧州や中南米から代表に合流してきた経験があるため、「クラブ」と「代表」の切り替え自体には問題はない。そんな中で、今の本田には「選手」から「監督」としてのモードの切り替えも必要となる。さすがの本田にとっても、そこの変化は未体験ゾーンであり、周囲にも一抹の不安はあったはずだ。

しかし、そんな不安も全くの杞憂に終わった。この試合、前半の動きはいつもより重い感じがしないわけではなかったが、プレーをしながらきっちり調子を上げる辺りはさすがだ。

この日の本田は、試合を通じて中盤の右サイドから攻守ににらみを利かせ、十分な存在感を見せた。後半には自らが得たPKを冷静に蹴り込み、自身3点目も挙げた。

この試合のスタッツで目を引いたのが、“デュエル数”と“デュエル奪取数”。デュエルとは、サッカーでのあらゆる1対1の局面を意味して、ルーズ・ボールの競り合い、ボールの奪い合いなどがこれに含まれる。この数値は、いわゆる球際の強さを測る基準であり、本田は、この試合で14のデュエルの機会で11を奪取した。これは奪取数で両軍通じて最上位。ほぼ8割の奪取率は全体で3番目という好結果。ともすると、フィジカルが前面に出るイメージを持たれがちな豪州サッカーだが、その中に入ってもねじ伏せられるフィジカル面の強さが表れている。少々、マニアックな話になったが、こういう違いをデータ上にもしっかりと表してくるのが、本田というフットボーラーの凄み。まさにその適例として特に引いておきたいと思った。

快進撃のビクトリー

このシドニーFCとの対戦に勝利した時点で3連勝と、自ら月間MVPを獲得した11月を勝利で締めくくった。12月の最初の第6、7節では、開幕からの2週間以来となる2週連続でのホーム・ゲームが組まれていた。広大な国土が故に、国内の移動距離が長くなりがちな豪州で、インターナショナル・ブレイクを挟む移動に明け暮れた11月が終わり、12月を本拠地に腰を据えて、迎えられるベネフィットは大きい。

そのホーム2連戦は、第6節で、かつて小野伸二が所属したウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(WSW)に4-0。続く第7節にはアデレード・ユナイテッドに2-0と快勝して、12月に入って3戦無敗と好調は続く。

WSW戦では、好調のテリー・アントニウスからのクロスを頭でねじ込み、自身4点目。司令塔のジェームス・トロイージ不在で不安視された攻撃陣も、変わらない高いクオリティーで4得点と結果を出した。守備陣は、CBで守備の要のゲオルグ・ニーデマイヤーをけがで欠きながら、代役のニコラス・アンセルがきっちりと仕事しての完封勝利。アデレード戦でも、試合早々、CBニーデマイヤーが負傷退場、アンセルも戦術上の理由でメンバー外だったが、チームきっての便利屋リー・ブロクサムが急遽DFラインに入って、そつなく務め上げて、今季初めて2試合連続で無失点で耐えられたのは大きな収穫だ。

第8節はアウェーのブリスベン・ロア戦。開始早々に、相手CKから得点されてもおかしくないような混戦があったが、最後にボールを蹴り出したのは本田。いきなり守備でチームを救った。13分、ビクトリーの先制点は、中盤の好位置での本田のパス・カットからの素早い展開だった。トロイージがボールを受けるとコスタ・バルバローセスにクロスを供給し、それを決めた。その後、自陣ペナルティー・エリア内の混戦で本田の反則を取られてPKで追い付かれるも、すぐにFWオラ・トイボネンのゴールで突き放す。更には、相手ハンドで得たPKを本田が沈めた。ダメ押しの4点目も、本田からのショート・コーナーを起点にしての得点と、ボール保有率で実に75%と圧倒したビクトリーが2-4で勝利。

これでビクトリーは、12月に入ってからの3試合は10得点で3戦全勝。前月からの連勝も6まで伸びた。不安視された守備も破綻をきたすことなく持ちこたえられている。ここからの年末年始の少し詰まってくる日程でも、今季負けなしで突っ走るパースに並走しつつ、何とか早いタイミングでかわしたいところだ。

27試合しかないAリーグでは、およそ3分の1の日程が既に消化された。ここまで、本田個人としてはかなり結果を出してはいるが、まだ首位に立てていない現状を本田が是とするはずがない。「まだ上があるだろう」と自ら率先垂範で勝利を追い続ける視線の先には、一体何が見据えられているのだろうか。ダウン・アンダーの地で迎える新年に何を思い、どんな抱負を抱えて臨むのか。

新しい年も、本田圭佑という類まれなる才能から目が離せない。

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