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コクヨがオーストラリアで初デザイン 日系マーケティング会社doq新オフィスにコワーキング・スペースを新設

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コクヨがオーストラリアで初デザイン
日系マーケティング会社doq
新オフィスにコワーキング・スペースを新設

日本の政府機関や地方自治体、日系企業のイベントやプロモーション事業など、2009年の開業以来数々のマーケティング事業を手掛け、今年で10周年を迎えた在豪日系企業doqがこの度オフィスの移転に伴い、コワーキング・スペースを新設した。また昨今、日本の働き方改革でも注目を浴びるアクティビティ・ベースド・ワーキング(Activity Based Working=ABW)を実現するオフィス環境を、文房具やオフィス家具の製造・販売を行っているコクヨ協力の下、実現。doq代表の作野善教氏、及びデザインを担当したコクヨの野島耕平氏に新オフィスについて話を伺った。(取材=馬場一哉)

━━doq新オフィスのデザインを、豪州初事例としてコクヨが手掛けられたそうですがどのような経緯だったのでしょうか。

コクヨは世界中のオフィスを紹介する雑誌『WORKSIGHT』を発行している。写真はメルボルンにあるメディバンクのオフィス
コクヨは世界中のオフィスを紹介する雑誌『WORKSIGHT』を発行している。写真はメルボルンにあるメディバンクのオフィス

野島「コクヨでは世界の先端を行く組織や働き方、ワーク・プレイスなどを紹介する『WORKSIGHT』という雑誌を発行しているのですが、オーストラリア特集号の取材コーディネートをdoqさんにやって頂いたのがきっかけでした。その後、お付き合いを続ける中で作野さんからオフィス移転の話を聞き、ご提案差し上げたという流れです」

作野「コクヨさんはオフィス家具の製造、販売を行っていることもあってオフィス環境の研究に余念がなく、さまざまなアイデアを持っています。ちょうど移転を考えているタイミングだったため、他国のデザイン事例を見させて頂いたりしたのですが、最終的には野島さんのプランと私の構想が合致していたというのが大きかったです。まさにタイミングですね」

野島「弊社としても豪州市場ではデザインの実績がなく、これからというところだったので、今回のプロジェクトは絶妙のタイミングでした」

誰もが利用できるコワーキング・スペース

━━今回、オフィスにコワーキング・スペースを設けられたそうですがその狙いはどこにあるのですか。

作野「例えば日本から出張で来られる方など、我々とお付き合いのある方々が、ホテル外で仕事をできる環境を得られないなど、困ってらっしゃるシーンをたくさん目にしてきました。そうした状況を目にする度、皆さまが効率良く仕事できるコミュニティ・スペースを提供したいと思うようになりました。前のオフィスでも会議室を開放するなどしていたのですが、今回の移転を機に本格的に取り組もうと考えた次第です。
 また、弊社は今年で10周年を迎えますが、次の10年は、オープン・イノベーションに力を入れていきたいと思っています。そのためには、いろいろな人たちの知恵やアイデアを集約しないといけない。そう考えると、やはりコミュニティ・スペースは不可欠だなと思ったんです」

━━なるほど。そうした作野さんのビジョンに対して、コクヨさんとしてはどのようなソリューションをご提案されたのですか。

野島「しっかりとしたビジョンがありましたので、その思いを最優先にしながら、私のデザイナーとしての経験を掛け合わせた提案をさせて頂きました。ご提案は昨年の8月にさせて頂いたのですが、『イメージは合致しているからこれでやりましょう』とすぐに決まりました。オフィスの入り口から一直線にコワーキング・スペース、コミュニケーション・スペースとひと続きにつながっているのですが、その先に海を眺めることができます。オフィスの入り口から奥に見える海まですっと奇麗に見えるよう、床と天井に同じ木を使ったりなど意識しました。doqという名に込められた同社のコンセプトをデザインでも表現した形です(※編注:doq=桟橋、寄港地の意)。
 また、日本とオーストラリアの融合もテーマの1つでした。例えばオーストラリアでは、街のいたるところでグラフィティを見かけます。そこでコワーキング・スペースにはグラフィティの要素を取り入れ、壁一面にdoqのメッセージをデザインしました。オーストラリアらしさ、シンプルで潔い日本らしさといった要素を融合したデザインを目指しました」

作野「我々の行っている日本とオーストラリアのクロスカルチャー・ビジネスを理解して、家具のソリューションにおいても2つの国のものを融合してくれました。野島さんがおっしゃっていた天井と床の木材もニュー・サウス・ウェールズ産のブラックバットという木を使っています。日豪の要素をうまく掛け合わせた提案はまさに我々の目指しているものです。コクヨさんの家具を優先的に使うといった形で自社の利益を優先するのではなく、我々の抱えている問題をしっかりと解決してくれる姿勢がうれしかったです」

コワーキング・スペースの壁には大きくdoqのメッセージが書かれている
コワーキング・スペースの壁には大きくdoqのメッセージが書かれている

━━コクヨは現在、オーストラリアには支社を持っておりませんが、豪州への進出などはお考えなのでしょうか。

野島「現在は私が個人で活動しているのが中心ですが、将来的にはあり得ると思います。コクヨの海外拠点はマレーシア、中国、香港、タイ、シンガポールなどにあります。私はデザイナーの立場として今後、オーストラリアでも空間構築のサービスを提供できたら良いなと思っています。現在、コクヨとして「空間価値」を重点的な事業ドメインの1つとして位置付け、中長期的には、日本国内だけでなく、成長領域として海外市場でも更に拡大すること目指しています。その流れでいくと、ワーク・スタイル先進国であるオーストラリアでも、空間価値を提供できると良いのではないかと考えています」

オフィスの席を固定しないABWという働き方

使用するデスクは、仕事や気分に応じて選ぶことができる
使用するデスクは、仕事や気分に応じて選ぶことができる

━━新オフィスでは1階部分が全て共有スペース、メゾネットタイプの2階部分がdoq社員のスペースという構造になっており、あくまで共有部分がメインとなっていますね。

作野「さまざまな相乗効果が生まれる距離感を考えながら、コミュニティーのスペースとdoqのスペースを分けたいと考えていました。1階部分はコワーキング・スペースやミーティング・ルーム、食事や休憩をする共有スペースという構成となっています。このエリアでさまざまな相乗効果が生まれることを期待しています」

━━また、注目したいのはdoq社員の働くスペースです。個人のデスクは決めず、毎日違う席に座ることができると伺いました。

作野「これは、アクティビティ・ベースド・ワーキング(Activity Based Working=ABW)というコンセプトに基づいています」

野島「最近では、『Agile』という言葉もよく聞きますがABWというのは、いわゆる一般的なデスクからスタンディングで作業できるデスク、あるいはカフェのようなオープンなスペース、集中して作業するスペースなどさまざまな作業環境を用意し、仕事内容によって働く場所をワーカー自ら選べるというというものになります。『今日はミーティングをしながら作業をしたいから人と一緒に座れるところでやろう』『今日は1人で集中したいからこのデスクでやろう』といったような形で働く場所を選ぶことができます。作野さんと新オフィスについて話を進める中で、doqさんの仕事も席を決めない方がよりクリエイティブにできるんじゃないかということで導入を提案させて頂きました」

━━導入後、目に見える変化はありましたか。

作野「新オフィスでの就労はまだ始まったばかりですが、旧オフィスを出なければならなかった関係で、実は既に社員全員で1カ月ほどコワーキング・スペースで勤労しました。そこも完全にフリーアドレスの環境だったので良いトレーニングになり、ABWにも比較的すぐに慣れた印象があります。ABWによって社内のコミュニケーションは改善されている気がします。広いオフィスではなくても、以前はチームによって席が決まっていたのでチーム間のコミュニケーションは希薄でした。
 しかし、今は隣の席の人が別のチームだったりするので、お互いがやっている仕事内容なども共有できます、また、キッチン・エリアを始めとした共有スペースで別チームのスタッフ同士が仲良く過ごしている光景も既に見られ始めています」

社内には会議室以外にも簡単なミーティングができるスペースが用意されている
社内には会議室以外にも簡単なミーティングができるスペースが用意されている

━━スタッフに個別のロッカーを用意し、荷物は全てその中に納めなければならないと伺いました。

「机が決まっていないので、机に物を置いて帰ることができません。そのため、全てロッカーに入れなければならず、またロッカーのスペース以上の物は会社に置いておくことはできません」

━━そうなると紙の資料などはデータ化するような形になるのでしょうか。

作野「その通りです。ロッカーの半分程度に物を減らすこと、必要なものは全部クラウドに挙げるようにという指示を出しました。そのために高速スキャナーも導入しました。この働き方が実現すればどこでも仕事をすることが可能になりますし、ワーク・フロム・ホームも可能になります。従業員の観点から見て、フレキシビリティはライフスタイルにとってもベネフィットがあるし、それで効率が上がるようであれば会社にとってもメリットがあります。机に頼らないというのは良いことだと思います」

オーストラリアの働き方

━━野島さんは世界中のさまざまなオフィス環境をご存知だと思いますが、オーストラリアの特徴はどのような点にありますか。

野島「オーストラリアはウェルビーイングという言葉をキーワードに、心身共に健康的な状態であることを非常に意識していますよね。オフィスとはいえ、長時間過ごす生活の場です。オーストラリアは生活の場としてのクオリティ担保に熱心ですね。日本でも『働き方改革』という言葉が聞かれますが、オーストラリアは健康や家族との時間を大事にするワークスタイルが定着している印象です」

━━本日の取材でもお2人ともお子さんを連れてきていらっしゃいますが、こういった点もオーストラリアらしさかもしれないですね。

野島「実は作野さんは最初は3階建ての物件も見ていて、当時、子どもも遊べる場所を作りたいとおっしゃっていたんです」

作野「子ども遊び場計画ありましたね。実現には至りませんでしたが、働いている社員本人だけではなく、ファミリーにとっても働きやすい会社にするためには、そういう場所もあって良いと思います。そういった環境を整えることで社員の離職率も下げられるでしょうし、そういうことも考えていかなければと思います」

━━コワーキング・スペースは今後どのように運営されていくおつもりですか。

作野「日豪のビジネスに関わるより多くの人に使って頂きたいと考えています。アポなしでも構わないので、もしビジネスに悩んでいるようであれば私で良ければ相談して欲しいと思っています。立ち話でも構わないですし、そんな感じのスペースにしていきたいですね。オープンな雰囲気の中、情報交換など助け合える部分は助け合って、結果的にそれがビジネスになれば良いですし、ならなくてもそれはそれで構わないと思っています。この10年間、いろいろな人に支えられてきました。皆さんに助けられた分、恩返しと言うと大げさかもしれないですが、自分たちができることをやっていきたいという思いがあります」

━━旧来の働き方から脱せない企業も少なくないと思います。その意味で今回のdoqの新オフィスは参考になる部分が非常に多いのではないかと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。(1月11日、doqオフィスで)

■doqのコーワーキング・スペースの問い合わせ
 Email: doq89@thedoq.com
■コクヨの製品・サービスに関する問い合わせ
 Web: www.kokuyo.co.jp(問合せフォームで受付)


野島 耕平 Kohei Nojima
コクヨ(株)スペースソリューション本部 クリエイティブデザイン部

ワークプレイスや教育施設を中心に、空間デザインやコンサルティングに携わる。JCDデザインアワード新人賞、DSA空間デザイン優秀賞など受賞多数。2018年より、アデレード在住。オーストラリア、日本を中心にアジア・パシフィックの案件に精力的に取り組む
(Web: nojik.net

作野善教 Yoshinori Sakuno (MBA / MDMM)
doq Pty Ltd Group Managing Director

2009年シドニーでdoqを創業。異なる文化と背景を持つ多種多様性に富んだチームと共にグローバル市場で働いた経験を生かし、政府系機関からスタートアップ企業まで日系組織の海外市場進出におけるマーケティングを全面的にサポート。14年クロスカルチャー・マーケティング・エキスパートとして、TEDxTitechで登壇。17・18年ニュー・サウス・ウェールズ州優良輸出企業賞の最優良企業5社に選ばれた

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