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日豪フットボール新時代(NAT)第104回「鎮魂」

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第104回 鎮魂
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

コスタ・バルバローシスは、公式インスタグラムでも改めて犠牲者への鎮魂の祈りを捧げた
コスタ・バルバローシスは、公式インスタグラムでも改めて犠牲者への鎮魂の祈りを捧げた

また、悲しい事件が起きてしまった。3月15日、ニュージーランド(以下、NZ)・クライストチャーチのモスクでの無差別銃撃事件で、50人もの無辜(むこ)の人びとが命を落とした。この事件、犯人が豪州国籍の男である事実を差し置いても、タスマン海を隔てた隣国、ANZACの盟友としてNZと切っても切れない関係にある豪州では、事件への驚き、怒り、鎮魂の祈りがメディアやSNSを介して瞬く間に国中を駆けめぐった。

その祈りの波は、当然、豪州サッカー界にも及ぶ。AリーグにはNZからウェリントン・フェニックスが参戦しており、更には本田圭佑からのパスで得点量産中のメルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)のFWコスタ・バルバローシスなど代表クラスのNZ人選手も多く活躍する。特に、先述のバルバローシス以外にも、ストーム・ルー、ジャイ・イングハムと計3人のNZ代表選手を抱えるビクトリーにとっては、事件直後の17日に行われたブリスベン・ロア戦は、本田の復帰以来、勝ち星に恵まれないチーム状況とも相まって、特別な意味を持つ試合となり、スタジアムに一種独特の雰囲気が漂った。

その試合に先発したバルバローシスは、母国からもたらされた衝撃的なニュースにいまだ茫然(ぼうぜん)自失で、打ちひしがれたような表情を隠せずにいた。それでも、動きは決して悪くない。そんな彼に得点のチャンスが前半24分に訪れる。本田からのすばらしいパスを受け、ゴールにボールを流し込むと、おもむろに正座してイスラム教徒の祈りの姿勢でピッチにひれ伏した。試合後、「正直、(事件の知らせに)打ちのめされて、すごく感傷的な1日だった。(ゴール後の)パフォーマンスは、犠牲者にとってはあまり意味がないのかもしれないが、あれが僕にできる何かだった」と語ったバルバローシスは、狂気のテロで命を奪われた犠牲者へ鎮魂の祈りを捧げたいという思いを隠しはしなかった。

その後も、17日に行われたウェリントンのホーム・ゲームでは、試合前に黙祷(もくとう)が捧げられ、対戦相手のウェスタン・シドニーを含む両軍選手とレフェリーが、センター・サークルに大きな輪を描き、共に犠牲者の冥福を祈った。この試合で得点を決めたFWロイ・クリシュナもまた先日のバルバローシスに倣(なら)い、ピッチ上で祈りを捧げた。

フットボールは決して暴力を許さない。犠牲者の冥福を衷心(ちゅうしん)よりお祈りしたい。


【うえまつのひとり言】
マチルダスの監督の座を追われたアラン・スタジッチが、Aリーグで最下位をひた走るセントラルコースト・マリナーズの新監督に就任した。何とも意味深な人事だが腕は確かだけに立て直しに期待しよう。かたや、最下位争いの相手であるロアは、あのロビー・ファウラーを新監督に迎えるとか何とか……。

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