辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじと共に注目の新作を紹介!レーティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。
ROMA/ローマ
Roma隊長が観た!
ドラマ/MA15+ 公開中 満足度★★★★★
30年ぶりに司会者なしでの開催となった第91回アカデミー賞。このところ毎年のように視聴率が下がり、司会者は何かあればその責任を押し付けられたりして「誰もやりたがらない仕事」とまで言われていた。実際、今年の司会者はコメディアンで俳優のケビン・ハートに決まっていたのだが、過去の同性愛嫌悪のツイートが発覚して発表の2日後に辞退を表明。結局、後任が見つからず、司会者なき授賞式となった。更に、視聴率低下の原因と言われている放映時間の長さ。毎年4時間以上の放送で、今年は時間短縮のため一部の部門の発表をコマーシャル中に行うと発表して大問題となった。もちろんこれは大勢の会員から批判が噴出して撤回となったが、今の時代、4時間以上もテレビに張り付いたり、更に知りもしない名前の連打、それもメモを読み上げるだけの受賞スピーチが続けば、多くの人びとが興味を失ってしまうだろう。他にも「人気映画賞」部門を新設すると発表しながらその延期が決まったり、かなりの迷走だ。しかし今年の授賞式は、けがの功名というか、司会者がいなかったので、過去にあった宅配ピザのオーダーや観光客を会場に入れてのドッキリなど、映画とは関係のない演出がなく、すっきりとした授賞式になったと思う。受賞スピーチも、『ボヘミアン・ラプソディ』で最優秀男優賞を受賞したラミ・マレックが、移民であるフレディ・マーキュリーを演じたことで、自身もエジプト移民の息子であることを語ったり、心に残るスピーチが多かった。特に『女王陛下のお気に入り』で主演女優賞を受賞したオリビア・コールマンが、テレビを見ている自分の子どもたちに「こんなことは二度とないから!」と、スピーチを早く終わらせろという指示に、舌を出して答えたり、本当に楽しくてすてきで彼女の性格がにじみ出たようなスピーチだった。間違いなく、ここ最近のベスト・スピーチだ!
そして、今年のアカデミー賞で最多10部門でノミネートされた『ROMA/ローマ』。メキシコ出身であるキュアロン監督の自伝的な映画で、彼の少年時代の思い出がベースになっている全編スペイン語の白黒作品。オープニング・シーンで、床掃除をしていて、その床が延々と映し出されているのだが、泡立った水がまるで海岸の波の満ち引きに見え、更にそこに切り取られた空が反射して映る。そして絶妙のタイミングで飛行機が横切る。もうこのシーンだけで、星5つ! って感じで、全編を通してのモノクロの美しさはもちろん、右から左へと水平移動するカメラの動きなど、徹底的にこだわった画面作りにうっとりしてしまった。夜、家の中の電気を1つひとつ消して行くシーンなんて、何気ないのだけど、動く絵画のような心に染みわたる美しさがある。静寂な感じや、構図のこだわりなどから、これまた大好きな小津安二郎監督の『東京物語』を連想してしまった。
最終的に今作は、監督・撮影・外国語映画の3つの部門で受賞した。通常、監督賞と作品賞は密接な関係にあり、監督賞を受賞した映画は作品賞を受賞することが多い。しかし、今年の作品賞は『グリーンブック』だった。なぜか? それは、この映画の製作が「Netflix」によるものだからだと思っている。オーストラリアでは、昨年の年末から映画館で公開されていて、今でもロングランで上映されているが、日本など他国では、Netflixに加入してストリーミングでしか観ることができない。フランスでも一般上映はなく、それによってフランス国内の映画館で公開される作品であることがコンペ出品条件であるカンヌ国際映画祭では参加を拒否された。その辺たりの条件に寛容だったベネチア国際映画祭では最高賞である金獅子賞を獲得したが、やはり一部では一般公開されないことに対して議論はあったようだ。結局、今回のアカデミー賞受賞で、日本でも一般上映が決まったということだが、果たして劇場公開がなく配信サービスされる映画は、区別されるべきなのか? アカデミーとしては、作品の質の高さは認めるが、やはり配信サービスの映画に作品賞を取らせるわけにはいかないとう考えがあったように思う。しかし、この『ROMA/ローマ』の成功により、今までの映画の概念は変わっていくだろう。映画は映画館で、何て思うのはもうオッサンの考え方なのだろうか……。
レゴⓇムービー2
The Lego Ⓡ Movie 2
ファンタジー、SF、アニメーション/PG 3月21日公開予定 期待度★★★★
2014年に大ヒットした『LEGOⓇムービー』の続編。世界中で親しまれるブロック玩具の「レゴ」を題材に全てがレゴ・ブロックでできた街、ブロック・シティーを舞台に冒険が繰り広げられる。前作でひょんなことから “選ばれし者”として世界を救うことになった主人公・エメットは底抜けに明るい性格の青年。同作では、彼の前に謎の宇宙人が現れ大切な仲間たちがさらわれてしまう。エメットは仲間との日常を取り戻すため、宇宙へと飛び出し大冒険を繰り広げる。前作より更にスケール・アップしたレゴ・ワールドが見られる。監督は『シュレック・フォーエバー』『トロールズ』『カンフー・パンダ』のマイク・ミッチェル。前作同様、フィル・ロードとクリストファー・ミラーが制作・脚本を手掛けた。
ファイブ・フィート・アパート
Five Feet Apart
ドラマ、ロマンス/M 3月28日公開予定 期待度★★★
難病と戦うティーン・エイジャーのラブ・ストーリー。ステラは嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう) で人生のほとんどを病院で過ごす17歳。入院生活を送る中で同じ病気のウィルと出会い恋に落ちる。彼らは生まれながらに体が弱くお互いの病気を悪化させないために特に感染に気を付けなければならない。2人はファイブ・フィート(約1. 5メートル)以上の距離を保たなければならないという規制があり、近付きたいのに近付けない。触れたくても触れることができない。病気によって人生のタイム・リミットが迫っている中、少しずつ愛を育んでいくという切ない物語だ。「生きる」とは何かを考えさせられる作品となっている。監督はNetflixで話題の『ジェーン・ザ・バージン』に出演している俳優のジャスティン・バルドニ。
ダンボ
Dumbo
ライブ・アクション、アドベンチャー/TBC 3月28日公開予定 期待度★★★★
戦地から帰還するも片手と最愛の妻を失ったホルトは、かつてサーカス団のスターとして活躍していたこともあり、小象のダンボの世話係を任された。ダンボの大きすぎる耳はサーカス団の笑い者だったが、ある日ホルトの子どもたちはダンボが耳を翼にして空を飛べることに気付く。引き離された母を救うため、コンプレックスを強さに変え、新たな1歩を踏み出そうとするダンボ。母を亡くした姉弟の“ダンボを助けたい”という思いと、ダンボの“ママに会いたい”と勇気を出して空を飛ぶ姿など、家族の絆が描かれた感動の物語。監督は、『アリス・イン・ワンダーランド』のティム・バートン、脚本・製作は『トランス・フォーマー』で知られるプロデューサーのアーレン・クルーガーが務めた。
未来を乗り換えた男
Transit
ドラマ/M 4月11日公開予定 期待度★★★
舞台は現代のフランス。青年・ゲオルク(フランツ・ロゴフスキ)は独裁体制となった祖国ドイツのファシズムから逃れるためパリへ逃亡した。しかし、彼の滞在先にもドイツ軍の占領が進行しており自身の立場がばれると命が危うい状況だった。ある手紙をきっかけに偶然の成り行きから、ホテルで自殺した亡命作家バイデルに成りすますことになる。そんな中、一心不乱に人を捜している女性マリー(パウラ・ベーア)と出会い、美しくもミステリアスな彼女に心を奪われていく。しかしそれは決して許されず、報われるはずのない恋だった。同作はナチスの悪夢的史実と現代の難民問題が描かれたストーリーとなっている。監督は『 あの日のように抱きしめて』のクリスティアン・ペッツォルト。
★今月の気になるDVD★
マイ・インターン My Intern
ドラマ、コメディー 97分(2010年)
ニューヨークでファッション通販サイトを運営し、短期間で会社を拡大させることに成功した女社長のジュールズ(アン・ハサウェイ)は、仕事とプライベートを両立させ充実した、まさに現代女性の理想の人生を送っていた。そんな彼女のアシスタントにシニア・インターンとしてベン(ロバート・デ・ニーロ)が雇われ、共に働くことになる。40歳上のベンを何かと煙たがっていたジュールズ。最初は若者ばかりの社内で浮いた存在のベンだったが、いつしか彼の仕事のきめ細やかさや、誠実で穏やかな人柄によって社内で徐々に信頼を得て人気者となっていく。そんな中、順風満帆だったジュールズに公私共に大きな問題が立ちはだかり、人生最大の決断を迫られる。誰にも相談することができずに苦しい日々を送っていたが、そんな彼女を救ったのは他の誰でもないベンだった。彼の温かな励ましを受けるうちに、心を開き頼るようになる。人生経験豊富なベンの的確なアドバイスに耳を傾け次第に心を通わせていく2人。スタートアップ・ビジネスを展開する若い女社長と70歳のインターンの人間的な関わりがお洒落でハートフルに描かれたヒューマン・ドラマ。ファッションやニューヨークの街並みなども見どころだ。いろいろ考えさせられ「私も頑張ろう」と思わせてくれるすてきな物語。『プラダを着た悪魔』が好きな人や胸をときめかせて働く女性にとって、たまらなく魅力的な作品ではないだろうか。(編集=SI)