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日豪プレス、メディア体験プログラム2019③

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日豪プレス、メディア体験プログラム2019

日本の魅力をシドニーから
日本政府観光局(JNTO)が見据える「その先」

2018年度に訪日したオーストラリア人観光客の数をご存知だろうか。人口約2,400万人中55万人が訪日し、これはドイツなど5,000万人を超える欧州主要国と比べても多い数字なのだ。このようにオーストラリアからの訪日客増加が顕著な中、ビッグ・データを収集・分析、旅行者への誘致活動などを行う組織が日本政府観光局(以下、JNTO)シドニー事務所だ。日本は今年のラグビー・ワールド・カップ(以下、W杯)を皮切りに国際イベントが目白押しということもあり、このような情報収集・分析、観光戦略は今後更に重要になるはず。そこで今回、同所次長の坂本卓也さんに具体的な分析内容などについて話を伺った。(取材・文=小川田彩夏、寺田菜々子、永藤希彩、安田糸織)

“大規模イベント後も訪日が持続する長期的プロモーションを”

国際イベントのアフター・ケアの重要性

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックが間近に迫ってきました。今年は、ラグビーW杯が開催されるなど、ますます日本での観光に注目が集まりますが、現在どのような事業に注力されていますか。

インタビューに応じる坂本卓也JNTOシドニー事務所次長
インタビューに応じる坂本卓也JNTOシドニー事務所次長

今年から来年にかけ大規模イベントが続きますが、イベント中は注目が集まり、一時的には盛り上がります。しかし、過去の五輪を省みると、そのように開催都市が刹那(せつな)的に熱狂した例が非常に多い印象です。

現在、ラグビーW杯に加え東京五輪など大規模な国際イベントを控える中、弊所としては、むしろ、これらのイベント後にも持続していくような長期的なプロモーションを心掛けています。

そこで、東京が五輪不景気に陥らないためにも、五輪以外のさまざまな魅力をPRすることが重要です。例えば、五輪で訪日した観光客に、良い体験をして頂き、帰国後に口コミでその実体験を発信してもらいます。それらのレビューを見て日本に興味を持つ人や、訪日リピーターを増やすことが大切だと思います。

――長期的な事業を行う上で、具体的にどのようなプロモーションを練っているのですか。

ラグビーW杯に関しては、北は北海道から南は熊本県まで開催都市が広く分散しており、かつ試合間の日数間隔が長いので、このような隙間時間に訪れることができる観光地をアピールしています。例えば、予選プールで、大分から東京に向かう道中にどのような観光地に行けるかというような案内などを行います。

――どのような媒体を使い、そのアピールを行っていますか。

主力となる媒体は、新聞紙、オンライン・メディア、旅行雑誌です。日本で有意義な時間を過ごしてもらうためにも、オーストラリアの旅行会社に、例えばラグビーW杯では試合間の空白時間に訪問できる観光地に関する知識を持って頂く、そうした工夫を行っています。具体的には、旅行会社のコンサルタントに向けて、セミナーの実施やE-Learning(インターネットを利用した学習形態)を通じて、日本の観光情報を提供し、日本の知識の向上を図っています。

訪日客の受け入れ対策

――今後、観光客を日本に受け入れていく上での改善点をどのように考えていますか。

国や自治体で進めている受け入れ環境などの整備と、弊所が担っているPR事業を両輪で進めていくことが重要だと理解しています。快適に日本を旅行して頂くため、日本の受け入れ環境を更に改善することが求められており、この点が課題となっております。

――言語面での不安もあると思いますが、これに関して対策はありますか。

言語に関しては英語表記看板や案内図の設置が進み、交通案内などの面では大幅に整備されました。そのため、案内図などの対応はできていると感じています。

また、英語話者が十分いない地域が多いという課題もあります。それらの地域でも、人材の育成や翻訳サービスの利用など、いろいろな工夫をして対応している所が増えてきました。その他にも、地域に特化した「スポット・ガイド」の育成など、国の方でも法改正などにより活躍できる人を増やすよう努めているところです。

――都心を始め大都市圏での交通手段は複雑です。訪日客増加の妨げになっていませんか。

訪日客が一番必要としているのは交通機関に関しての情報だと理解しています。東京ではJRを始め、地下鉄や私鉄があり、それらの乗り換えを複雑に感じる観光客がいます。鉄道やバスなどに関しては、ここ数年で英語表記の案内が増え、改善されている印象です。

タクシー会社は指差しの英会話集を使用し、英語が話せなくてもコミュニケーションを図れるようにする工夫を始めています。またレンタカー会社は英語対応のナビを導入し、訪日観光客が利用しやすいような対応をしています。

脱一過性訪日ブームが目標

――日本の観光業の展望に関しては、どのようにお考えですか。

イベント時の一過性の訪日ブームから脱出し、長期的に観光客を、年間を通じ一定数確保したいと考えています。具体的には、ラグビーW杯や五輪で訪日してくださった人にリピートしてもらうことが大切だと思います。

そのために、我々JNTOの業務内容である日本の魅力のPRを進めていますが、個人的な見解では、そろそろ本格的に受け入れ態勢の整備に腰を据える必要があると思います。日本に対して良い印象を持って訪日したものの、旅先で不快な思いをされてしまうと、リピーター客が減り、観光業としては逆効果です。随分前から指摘されていますが、キャッシュレス化の推進、周遊パスの普及、英語を用いてのコミュニケーション、都心部のホテル価格の上昇など問題が山積しています。

――それらの問題解決に向けて、JNTOはどのように動いていますか。

JNTOの役割の大部分は、海外から観光客を日本に誘致するためのプロモーションを行うことにあります。一方で、我々は観光客の中ではこれが不便と言われている、こういうものが今はトレンドである、といった現地の声や動向を情報提供や共有といった形で地方自治体、事業者などの関係者に届けるという役割を担っています。そういった情報を基に地方自治体や事業者の方々と共に、より便利に日本を旅行できるように改善していくことになります。

このような大規模な情報収集や共有を行えるのは、政府機関であり、海外に現地事務所を持つJNTOならではの強みだと思います。

日本の観光業、インバウンドに関しては最近まで、主に東アジア、東南アジアからの誘客をターゲットとしていました。ようやくオーストラリアにも注目が集まりつつある中、我々が主催するセミナーなどをきっかけに、キャッシュレスや言葉の問題などを知ってもらい、受け入れ環境の整備などの課題に取り組んで頂きたいと思います。

坂本卓也(さかもとたくや)
プロフィル

1982年生まれ、和歌山県出身。広島大学文学部卒業。2005年に和歌山県庁⼊庁後、港湾空港振興課、紀南県税事務所、白浜町役場観光課、企画総務課、政策研究大学院大学(地域政策プログラム)を経て、観光交流課に配属。その後、15年に日本政府観光局(JNTO)本部海外プロモーション部に派遣、16年に日本政府観光局シドニー事務所次長に着任。現在、プロモーション事業の立案や実施などを担当

現場雑感:「私たち1人ひとりが自国の魅力“伝道師”」

海外フィールドワーク・プログラムで2月中旬から2週間、シドニーに滞在した。こちらの人びとは皆おおらかで、友好的で温かい。大学生の私たちが肌で感じたのは、オーストラリアは予想以上に親日国だということだ。偶然隣り合わせたバスの乗客から「日本に行ったことがあるのよ!」と笑顔で声を掛けてもらうこともあり、日本人で良かったとうれしくなった。

こうしたうれしい体験には、JNTOシドニー事務所を始めとしたさまざまな政府機関や民間企業が連携して日本の魅力向上を図ってきた影響が大きいだろう。特に、日本全体という広い視野で魅力を発信できるのは、政府機関であるJNTOならではの強みだ。

時代に合わせた柔軟なプロモーションの甲斐あってか、オーストラリア人観光客の訪日満足度は他の国と比べても高いという。

取材を通して感じたのは、JNTOシドニー事務所がラグビーW杯や東京五輪といった大きなイベントの「その先」を、長期的な視点で見据えているということだ。こうしたイベントはきっかけに過ぎず、継続的に訪日してくれる「日本ファン」を増やしていくには、日本での受け入れ環境の改善が欠かせない。

今回のシドニー滞在を振り返ってみても、旅の思い出は先述のような小さな出会いの積み重ねによるものだと感じる。これが日本での場合、たとえ英語力に自信がなくても、訪日客に話し掛けることを恐れずに優しく歓迎することで、私たちもJNTOのような日本の「魅力伝道師」になれるかもしれない。旅先でのすばらしい経験は、口コミやSNSを通じてどんどん広まっていく。今回たくさんのオーストラリア人の優しさに触れた私が、帰国後、家族や友人にシドニーのすばらしさを語るように。

JNTOを始めとした政府機関もさることながら、私たち日本人1人ひとりが果たす役割、その行動の意味は大きい――。それが日本全体の長期的な訪日客増加や、イメージアップにつながっていくのではないか。(文=小川田彩夏)


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