第105回 再来
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu
今季のAリーグも最終盤に入り、レギュラー・シーズン優勝“プレミアシップ”争いは、シーズンを通じて隙のない戦いを続けるパース・グローリーと、首位への挑戦権を懸ける決戦で本田圭佑のメルボルン・ビクトリーに引導を渡すなど、このところ好調のシドニーFCの2チームに限られた。
そんな今季を通じて、終始、蚊帳の外に置かれているのが、最下位争いを演じるセントラル・コースト・マリナーズとブリスベン・ロアの両チーム。ロアが9位、マリナーズが10位に収まったのは第7節で、以来、ずっと定位置に居座り続けている。第24節終了時点での両チームの勝ち点差は5。残りの結果次第では逆転もあり得るだけに、どちらが“Wooden Spoon”(ブービー賞)を握るのかは最後まで予断を許さない状況だ。
ここで、かつては強豪に数えられたこともあるロアの14年間の歴史を振り返ってみる。ロアが最下位に沈んだことは、いまだかつてない。過去最低の順位は、2009/10シーズンの9位。今季、ファイナル・シリーズを逃したのは、そのシーズン以来、実に9季ぶりの屈辱となった。
ちなみに、この09/10シーズンは、シーズン途中に長期政権を担っていたフランク・ファリーナが飲酒運転で逮捕され解雇。その後任に、あのアンジ・ポスタコグルーが就任したシーズンでもある。そこで、ポスタコグルーは、そのシーズンの成績は度外視して、過度なベテラン依存でモラル崩壊に陥っていたチームの大改革に着手。生まれ変わったチームは、翌10/11シーズンには、V字回復での“プレミアシップ”とファイナル王者“チャンピオンシップ”の2冠を成し遂げた。
今季はシーズン途中で4季目の指揮を執っていたジョン・アロイージが自ら身を引き、豪州U-20代表のアシスタント・コーチだったダレン・デービスが暫定監督に就任するもチームは浮上しないまま。改革を断行できる経験豊富な有能なコーチを招聘(しょうへい)するべきなのだが、後任にはいろいろな名前が浮かんでは消え、現在、契約間近と言われているのが、Aリーグでのプレー経験もある名門リバプールのレジェンドであるロビー・ファウラー。
ファウラーのコーチとしての手腕がどの程度なのかは定かではないが、少なくともコーチとしての経験が心許ないのは事実。その彼が、解体的出直しが必要なクラブをV字回復に誘う「アンジの再来」とは思えない。
【うえまつのひとり言】
QLD州1部NPLQ・オリンピックFC所属の伊藤和也は、今季で実に7季目のシーズンを迎えた。昇格組など新興勢力が席巻するリーグ戦で善戦するチームの今や精神的支柱の伊藤が、7季目にして初めて、その腕にキャプテン・マークを巻いた。彼を筆頭に多くの日本人が活躍するNPLQにもぜひ注目して欲しい。