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骨折したカンガルーの赤ちゃん

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第69回
骨折したカンガルーの赤ちゃん

有袋類の中で2番目に大きいオオカンガルー(Grey Kangaroo)の走る速さは、最大時速64キロと記録されていますが、その速さで道路を横切るため、自動車と衝突してしまうこともあります。

野生動物保護団体「ワイルドケア」(Wildcare Australia Inc)は、夜間のレスキューにも対応しており、一番多いのが車との接触事故でけがをしたカンガルーのレスキューです。現場に駆け付けると、まずは状況確認をします。カンガルーが生きているか、どれくらい動けるか、ボランティア本人や周囲の人間に危険は及ばないかなどを判断します。

車と接触した母親カンガルーの育児嚢から保護したカンガルーの赤ちゃん
車と接触した母親カンガルーの育児嚢から保護したカンガルーの赤ちゃん
骨折部分の術後のレントゲン写真
骨折部分の術後のレントゲン写真

残念ながら、現場に着いた時にはカンガルーは既に亡くなっていたことが多々あります。その時は、死亡確認とメスであれば「パウチ・チェック」という、育児嚢に赤ちゃんがいないかどうかをチェックする作業が行われます。赤ちゃんがいる場合、ウールやフリース素材の袋に移し、保温して病院に運びます。その際、赤ちゃんが母親の乳首に吸い付いて離れないことがあり、無理に引き離すと口やあごに障がいが残る可能性があります。そのため、赤ちゃんに咥えさせたまま乳首を切断し、安全ピンで袋に固定して、赤ちゃんが乳首を飲み込んでしまうのを防ぎます。

このカンガルーの赤ちゃんは、お母さんが車と接触した時の衝撃で後ろ脚を骨折してしまいました。折れた骨を固定するために手術でピンを挿入し、最低でも4週間、安静にする必要があります。

育児嚢から出る前のカンガルーの赤ちゃんは、生まれてから9カ月は袋から出ることがないため、骨折部位に負担を掛けず治療することができます。

保護士は、昼夜問わず2~3時間おきにミルクを与えてトイレの世話をしたり、温度や湿度に気を付けたりと、大変な思いをしながらまだ体毛も生えていない赤ちゃんを育てます。オオカンガルーの子どもが独り立ちするのは2歳くらいだと言われているので、保護士にとっても長い道のりとなります。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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