第106回 頂点
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu
2018/19シーズンの最後を飾る試合は、少々エンタメ性を欠く、良く言えば締まった試合だった。5月19日、パースの真新しいオプタス・スタジアムで行われた「Aリーグ・グランド・ファイナル2019」は、レギュラー・シーズンの上位2チーム、パース・グローリーとシドニーFCによる対決となった。試合は、120分を戦い切ってもスコアレスのまま、PK戦までもつれ込んだ。
PK戦を制したのはシドニーFC。昨年先行されたライバルのメルボルン・ビクトリーにしっかりと肩を並べ、Aリーグ最多タイの4回目の王座獲得。パースは、14年目で初のレギュラー・シーズン優勝を勝ち取り、満を持して臨んだ2度目の王座挑戦も1歩及ばなかった。それでも、試合後のシドニーFC主将のアレックス・ブロスクの言を借りるまでもなく「今季Aリーグのベスト・チーム」だったことは疑いようがない。今季終了後に戦力流出がなければ、来季の優勝候補筆頭に間違いなく名前が挙がる好チームだ。
PK戦の結果、シドニーFCが勝利したことでほっと胸を撫(な)で下ろしているのは、ビデオ・アシスタント・レフェリー(以下、VAR)を含む審判団であろう。前半のシドニーFCの幻のゴールは、確かに微妙ではあったが、映像を確認すればオン・サイドであることは歴然。それなのにVARはあっさりと流してしまい、ノー・ゴールのまま試合は進んだ。この判断でディスアドバンテージとなったシドニーが勝利したことで、結果的に不問に付される形にはなったが、結果が逆の場合は大いに問題となったはず。VARの存在意義を問われかねないケースとなり得ただけに「終わり良ければ……」で片付けてしまうことのないように願いたい。
シドニー、パースの両チームは、この頂上決戦にふさわしいチームだった。各ポジションを見ても、代表クラス、元代表、外国人、若手のホープなどがバランス良く顔をそろえており、とかく軽視されがちな「国内組」の底力をしっかりと見せることで、現状のAリーグのスタンダードをきっちり示した。その中でも一際存在感を発揮したのが、最後は太ももの違和感で途中交代を余儀なくされたものの、惜しみない前線からのチェイシングや攻撃に移った時の展開力など、まだまだ現役でやれるほどの切れを見せたブロスク。彼が、その輝かしいキャリアを頂点に立ったまま終えることを祝福したい。パースの人びとには申し訳ないけれども……。
【うえまつのひとり言】
6月の女子W杯に臨むマチルダス(豪代表)の顔ぶれが発表された。アンテ・ミリチッチ監督は、弱冠16歳のメアリー・ファウラーをサプライズ選出。その煽りで同じFWのカイア・サイモンがサブ・メンバーでの選出となり周囲を驚かせた。大会は同月8日から。豪州はイタリア、ブラジル、ジャマイカと予選グループで競う。