個人・法人を問わず、タックス・リターンやビジネス決算、起業支援・相談などをサポートしてくれる会計事務所。特にオーストラリアの会計年度が変わる7月は、頼れる会計士を身近な存在にしておきたい。年々変わる税制や法令は、その都度対応していくことが難しく、知らなかったでは済まされない問題が起こる恐れもあるため、専門家への相談が必要だ。本特集では、オーストラリアを拠点とし日本人会計士が在籍する6つの会計事務所をご紹介。それぞれの会計事務所について、そして専門家として心掛けていることなどをインタビューで聞いた。
アーンスト・アンド・ヤング
Ernst & Young (EY)
世界各国でアシュアランス(監査・保証業務)、税務、アドバイザリーなどのサービス事業を展開する世界4大会計事務所の1つ「アーンスト・アンド・ヤング」。同事務所のジャパン・ビジネス・サービス部門のグローバル・リーダー・菊井隆正氏に、他社と比べての強みや業務で心掛けていること、今後のビジョンなどについて話を伺った。
- アシュアランス・税務・アドバイザリー・トランザクションの4つの主要部門から構成
- 世界約150カ国に所在する28万人を超える構成員が高品質かつ専門的な幅広いサービスを提供
――貴事務所は、具体的にどのようなサービスを提供されていますか。
EYは、アシュアランス(監査・保証)、税務、アドバイザリー及びトランザクションの4つの主要部門から構成されています。
アシュアランス部門では会計監査業務が主で、オーストラリアでは上場企業トップ200の約30%を監査しています。監査以外ではあまり知られてないところで気候変動とサステナビリティーに関する保証や不正調査サービスがあります。
税務部門では会社や個人の各種税務申告に関することはもちろん、国外取引の移転価格問題、また関税、GSTといった間接税や税務訴訟のサポートも行っています。また主に駐在員の就労ビザに関するサービスや富裕層向け事業継承に関するサービスも提供しています。
アドバイザリー部門は業務改革アドバイザリーとリスク・アドバイザリーから構成されています。業務改革アドバイザリーでは企業成長戦略、業務効率化、マーケット動向や規制へのオペレーション対応支援サービスに特化しています。後者では、サイバー・セキュリティーなど多様に変化するビジネス環境から生じるリスクへの包括的な危機管理戦略立案を行うだけでなく、対応状況評価及び改善提案の専門家としてクライアントを支援しています。
トランザクション部門では、企業買収・合併(M&A)及び売却など企業取引に関わる全てのサービスをワンストップで提供しており、M&Aにおける戦略立案から、買収後の企業統合プロセスに関する業務までサービスは多岐にわたります。更に、株式譲渡契約の作成・交渉や法務デューディリジェンスなど税務・会計の専門家と密接に協働しながら弁護士チームによる法務サービスも提供しております。
――貴事務所ならではの、他社と比べての強みはどのようなものでしょうか。
EYはグローバル化が特に進んでいるファームであると言えます。世界約150の国に所在する28万人を超える構成員が、地域を選ばない一貫した、高品質かつ専門的な幅広いサービスを提供しています。また、EYにはジャパン・ビジネス・サービス(JBS)という日本企業の海外事業展開をサポートするEYグローバルネットワークが存在します。そのネットワークを統括するための本部機能はEYジャパン内に設けられていますが、世界の70を超える主要都市に約500人(うち駐在員約100人)の日本語対応可能なプロフェッショナルを配置することによって、クライアントの皆様が急激に変化する世界において更なる挑戦と飛躍をするためのお手伝いを国境を越えてさせて頂いています。JBSオセアニアに関しては、日本のプロトコールを熟知したバイリンガルスタッフ約25人が在籍し、ただの通訳としてではなく、監査や税務、アドバイザリーなど実際の現場に入りクライアントの皆様にきめ細やかなサービスを提供しています。また、7月1日からEYジャパンとEYオーストラリア・ニュージーランドを含むアジア・パシフィック・エリアが統合し、人材リソースや専門能力の活用など、国・地域を越えたシームレスで、これまで以上に充実したサービスをグローバルでビジネスを展開している日本企業を支援して参ります。
――監査・会計アドバイスはもちろん、ビザ、M&A、企業の成長戦略支援など多岐にわたる分野でアドバイスを行っていますが、日系企業から多く寄せられる案件はどのようなものですか。
例えば、私たちが特に力を入れているトランザクション部門に関してですが、インフラ関連では、シドニー第2空港に代表される政府主導の大型インフラ・プロジェクトが計画されており、大手商社のみならず建設関連の企業が関心を示しており、多くの問い合わせを頂いています。また、金融業界では既進出の生保及びアセット・ウエルス・マネジメントの更なる事業拡大、また、新規参画を画策する日系金融機関からの案件もありました。資源・エネルギー関連では、一般炭の権益売却による豪州アセットの入れ替え、環境に配慮した再生可能エネルギ―への参入に関する問い合わせも多数あります。その他、住宅・商業施設・不動産においては、現地進出済の企業からは周辺関連ビジネスへの拡大可能性の問い合わせ、また、中堅日系企業の新規参入を狙った問い合わせも多数あります。
――会計監査や税務のみならず、コンサルティング・サービスなど幅広い分野の中で、得意とされているもの、これから延ばしていきたいものは何でしょうか。
引き続き今後も増えると予想される日系企業によるオーストラリアへ進出時に必要なM&Aを包括的にサポートするサービスを伸ばしていきたいと考えています。また、買収を通して既に大規模な現地企業を保有されている会社も数多くありますので、そういうところにはカスタマー、収益管理、事業戦略の見直し、オペレーションの再構築、ERPを中心にIoTやAI活用といった、最先端技術の導入支援などのコンサルティング・サービスを伸ばしていきたいと思います。また、最終的に成功するかどうかは人と組織の変革が要となりますので、人事組織設計や構造改革、人事評価・報酬制度の再設計など人事に関係する業務もサポートしていきたいと思っています。
更に、EYウェーブ・スペースと呼ばれるイノベーション施設がシドニー事務所にも昨年開設されました。ここは、クライアントを招いて日頃の業務から離れAI、ロボットやブロック・チェーンなどのツールを利用しながら、クライアントが抱えるさまざまな課題や業界を取り巻くディスラプションに対応するための手法を専門家と一緒に考える特別なエリアとなっています。
――税制の変化がめまぐるしいオーストラリアにおいて、業務で心掛けていることは何ですか。
改正の意図をきちんと理解するためにも、過去の大きな流れから税制の変化をきちんと把握するように心掛けています。EY内部には、「Tax Policy Centre」という税制の専門家で構成されている部門があり、彼らは常にアンテナを張りめぐらして税制の動向を注視し、税制改正の影響などを分析の上、社内で情報を共有しています。クライアントの置かれている背景はそれぞれ違うので、税務に限らずクライアントのビジネスや取引、業界における動向についても理解を深め、税制の変化の影響を事前に探知できるように努めています。
税務の情報提供に関してJBSでは、Tax Policy Centreから受け取った大量の情報をチームで協議し、日系企業に影響があるものを厳選してメルマガやセミナーなどで最新情報としてお伝えすることを常に心掛けています。
――今後のビジョンや展望について伺えますか。
EYオーストラリアには8,000を超える専門家がさまざまなアドバイスを多くのクライアントに提供しています。その情報や経験の蓄積は膨大な量になるかと思います。業界の性質上、守秘義務の問題などもあるかもしれませんが、これら情報の管理は、ボタンを押して簡単に出てくるものでなく、人的なネットワークに依存しているところがあります。社内でのネットワークを強化することで、蓄積された情報・経験を理解し活用し、クライアントにさまざまなソリューションの提供ができるようにしていきたいです。また、そのようなチーム作りをしていきたいと考えています。
Ernst & Young (EY)
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