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オーストラリアにおける雇用時の不正:人種差別 – 身近な法律問題

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法律は何となく難しいもの――そう思ってはいませんか?しかし法律は私たちの日常生活と切っても切り離せないもの。このコラムでは毎月、身の回りで起こるさまざまな出来事を取り上げ、弁護士が分かりやすく解説を行います。

第46回:オーストラリアにおける雇用時の不正:人種差別

オーストラリアの政府組織「Fair Work Ombudsman」は労働問題における警察・検察組織のようなもので、雇用条件の不正に対して非常に厳しい措置を取ることで有名です。特にここ数年の取り締まりには目を見張るものがありますが、つい先日、オーストラリアでは初めてとなる給料体系における人種差別で立件された事案の判決が下されました。

オーストラリアの「Fair Work Act 2009の351条(均等待遇)」では、人種、肌の色、性別、年齢、信条または社会的身分などを理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、雇用主は差別的な取扱いをしてはならないことが規定されています。

上記ケースでは、ホテル経営者が外国人夫婦を国外からテンポラリー・ワーク・ビザ(サブクラス457)で呼び寄せて、雇用した際の労働条件が明らかに他のローカル・スタッフとは異なっていたことが問題視されました。経営者側はローカル・スタッフの雇用に際しては最低雇用条件と最低賃金を守っていたことから「Fair Work Act 2009」が定める条件を十分に理解しており、その一方でビザをスポンサーした従業員の雇用については最低雇用条件と最低賃金を守らずに長時間労働を強いていたことから、裁判所は雇用主が外国人労働者を雇用するに当たって意図的な労働条件の差別を行っていたものと判断し、本来支払われるべき給与の未払分計2万9,325豪ドルの支払いはもちろんのこと、雇用主である会社と実際に不正を働いたディレクターに21万1,104豪ドルの罰金を科しました。

政府はこのような差別雇用がオーストラリア国内で頻発していることを強く問題視しています。特に外国人労働者でビザをスポンサーしてもらっている人は、ビザがキャンセルになることを恐れて雇用主に対して強く出ることができないことが多く、結果として、雇用主による不正が野放しとなっているケースは少なくありません。

しかし、オーストラリアの労働法では雇用主が立場の弱い外国人労働者から給料を(搾取という表現ではなくより悪質な)“盗んだ”とみなす傾向にあり、労働者を保護することを目的としていますので、法律で定められている最低賃金・労働条件以下で働いている人は、今後同じような被害が発生しないよう、勇気を振り絞り、声を上げて頂ければと思います。

なお、「Fair Work Act」の規定では雇用に関する請求に関しては6年の時効が定められています。これには未払い給与だけでなく、未払いの有給休暇や残業手当、週末や祝祭日レートの支払いも含まれます。


弁護士:神林佳吾
(神林佳吾法律事務所代表)

1980年東京生まれ。95年渡豪、2004年クイーンズランド大学経営学部・法学部、同大学大学院司法修習課程修了後、弁護士登録。以後14年以上にわたって訴訟を中心に応対

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