第108回 潮時
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu
7月11日、豪州フットボール界に大きなニュースが飛び込んできた。驚きをもって迎えられたそのニュースとは、豪州フットボール連盟(FFA)のデービッド・ギャロップCEOの退任の知らせ。2012年にラグビーリーグ(NRL)の同職から三顧の礼をもって迎えられ7年。良くも悪くもフットボール界での話題に事欠かなかったギャロップ退任の報に、豪州フットボール・コミュニティーは間髪入れずに反応した。彼が一般的にフットボール・ファンの受けが悪いのは周知の事実であるだけに、当然その反応は彼の退任を歓迎する声が大半だった。
豪州フットボール界に隠然たる影響力を持ち続けたフランクとスティーブンのローイ父子2代にわたる“ローイ王朝”。その番頭格として、NRLから鞍(くら)替えする形でCEOに就任したのがギャロップだった。10年の長きにわたってCEOを務めた彼のNRL時代の言動や、前任のベン・バックリーに続き、他のコード、所謂サッカー以外の球技をバックボーンに持つ人材のトップ就任ということで、一部には任命を疑問視する声もあった。それでも大半のファンは、当時ラグビー・ユニオンの後塵を拝してプロ・スポーツでは最も不入りだったフットボールにテコ入れをするためにも、その手腕に大きな期待を掛けていた。
彼の7年のFFAでの任期の功罪の詳細を語るには紙幅が足りない。長年、透明性、公平性を欠くと指摘され続けてきたFFAのガバナンス体制が見直されて、彼の後ろ盾だったスティーブン・ローイが会長職を辞した。そういった大きな変革のうねりの中で、FFAの一時代の終わりを感じ取っていたのが、他ならぬギャロップ本人だった。
そこにきて、先月号でも触れた女子代表のアレン・スタジッチ前監督の突然の解任劇とその後の一悶着。あまりにも事の経緯とその対応が稚拙だった。それが決定打となって、彼は権力を手放すことを決めたのだろう。いずれにしても、功罪相半ばで去っていく彼の7年の業績は、改めて公平な視点で検証されるべきだ。
よどむ水には芥溜(ごみ)まる。7年の任期、そろそろ潮時だったのだろう。53歳とまだ若く、豪州スポーツ界有数のエグゼクティブである彼の次の活躍の舞台はどこになるのだろうか。
【うえまつのひとり言】
女子W杯のマチルダス(豪州女子代表)は、決勝トーナメント初戦でノルウェーにPK戦で敗れ、失意のうちに大会を去った。終始、強さが際立ったアメリカが下馬評通りに大会を制した。大いに盛り上がった女子W杯を豪州で開催しようという動きがある。ぜひ、実現させたいものだ。