第71回
水鳥の油汚染対策
例年冬のこの時期は、保護される野生動物の数が最も少なくなります。動物の検査や治療に追われることなく、落ち着いて何かができるのは1年のうちこの数週間だけということもあり、カランビン・ワイルドライフ病院(Currumbin Wild life Hospital)では設備のメンテナンスや治療計画の見直しに取り組んでいます。
鳥の油汚染事故対策も、この期間に取り組むことの1つです。この対策は、沈没船やタンカーからの重油流出により羽毛が油まみれになってしまった被害鳥の救護や治療を想定したものから、もっと身近な所で起きる油による被害にまで活用されています。
油まみれになって保護される鳥の多くは、家庭や工場などで使われる油の容器に誤って着地してしまったことが原因で、飛べなくなっています。羽に油が付いてしまった鳥は、それをクチバシを使って取り除こうとし、逆に油を広めてしまいます。油は羽毛の防水性を奪ってしまうため、特に水鳥はずぶ濡れになり低体温症になることもあります。
南半球に生息するミズナギドリ科のオオフルマカモメは、体重3キロを超える大型の海鳥です。6月に2羽の幼鳥が保護されリハビリをしてしましたが、保護されて1週間以上経ってから、首と胴の前側だけ羽毛の防水性が失われてきてしまいました。原因は、餌として与えていたイワシの油脂です。
すぐに洗浄作業を行いましたが、羽毛についた油を取り除くのは容易ではありません。鳥が入れる大きさの容器にお湯を張り、濃い目の食器用中性洗剤を溶かします。そこへ鳥の体全体を浸し、手でジャブジャブと水流を起こして洗浄液を羽の隙間に染み込ませ、油を浮かせます。そして、強く擦ってしまうと羽を傷めてしまうため、水流だけで油を落とします。油が落ちにくい場合は、水圧が強めのシャワー・ヘッドを使うこともあります。洗浄液が汚れたら新しいものと交換し、油が出なくなるまですすぎます。その後、体を乾かして洗浄作業は終了です。
油の種類によっては何度も洗浄を繰り返すこともありますが、オオフルマカモメたちの油汚れは1回の洗浄で落とすことができました。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。