検索
Close this search box.
検索
Close this search box.

【今さら聞けない経済学】自由貿易はなぜ必要か

SHARE
今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第52回:自由貿易はなぜ必要か

はじめに:「G-20」について

最近、世界にとって非常に大切な国際的な会議が大阪で開催されました。「G-20」という主要20カ国の首脳会議です。それは、2008年から毎年開催されている、いわば世界のリーダーたちの集まりです。そこでは、一般に世界が目下直面している大切な問題について討議し解決の道を探ろうと、主要20カ国のトップが一堂に会して議論する会議なのです。そのような大切な会議が19年6月28日から29日にかけて日本の大阪で開催されたのです。

同会議の最終日に議長の安倍首相が議題のまとめを発表している時、安倍首相の隣で、プイと顔を背けている人がいました。それは世界のトップ・リーダーであるアメリカのトランプ大統領でした。トランプ大統領は、この会議での最終的な結論にほとんど同調しなかったのです。この会議での主要なテーマは「世界経済の自由経済の在り方について」でした。つまり、世界経済において自由貿易を推進していこうという結論でした。トランプ大統領は、アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)を掲げています。なぜ世界各国と同調して自由貿易を拡大しなければならないのか。それがトランプ大統領の「腹の内」の考えなのでしょう。

オオサカ・トラック

この会議で決まった結論は「オオサカ・トラック」と呼ばれています。聞き慣れない英語ではないでしょうか。トラックとは、我々になじみのある意味だと「自動車のトラック」が思い浮かびますが、辞書によると「Truck」と綴り、「取引」という意味になります。つまり、この大阪のG-20で話し合われたのは、「世界のトラック」つまり、「自由取引」についてです。

世界が一様に成長するためには、自国第一主義を掲げ相手国の輸入制限をするようではその目的を達成できるはずがありません。経済学の主要な目的は世界経済が同時に発展する方法を探ることです。20世紀の始めには、「自国第一主義」を掲げ、外国からの輸入を制限する政策が採られていました。それを「保護貿易主義」と言います。そのようなことを世界各国が採用するとなると世界の経済は一様に沈んでいってしまいます。第2次大戦が勃発した原因は、各国が自国の経済を外国から守ろうとして、外国製品に高い関税を掛けたり、輸入制限をしたりして、相手国の物(財)を買わないようにしたために、わだかまりが生じ戦争が始まったと考えられます。

そこで、同コラムでも何度か紹介した経済学者の代表的存在である「ケインズ」が2度と戦争をしないために世界で約束事を決めたのです。それは、世界は貿易をする際に「制限」を加えない、ということなのです。ケインズは、「お金の取引と物の取引において制限を課さない」という制度を作ったのです。その取り決めが話し合われたのが有名な「ブレトン・ウッズ体制」です。まさにそこでは、大きな「トラック」について話し合われたのです。

GATTとは何か

世界各国は自分よがりでなく共に発展すべきであると考え、そのために、自由貿易を推進する機構が作られました。それが先ほど述べた「ブレットン・ウッズ体制」です。まず、ITO(国際貿易機構)という国際機関を設立し、そこで自由な国際貿易の推進の約束を取り付けました。しかし、戦後の世界の中心国であるアメリカがこの条約に反対したのです。従ってこの機関は日の目を見ることがありませんでした。

それに代わるものとして、国際連合は、「General Agreement on Tariffs and Trade」という国際機関を作りました。これは一般に「GATT(ガット)」と言われ、日本語にすると「貿易と関税に関する一般協定」と言います。この条約で、世界各国は共に経済を発展させるために、GATT加盟国は、貿易制限や関税の引き上げ競争、また、為替の切り下げ競争を禁止し、自由取引を推奨する約束をしました。また、GATTは、自由貿易を実現化するために、2カ国間同士で貿易をする際、相互に関税を引き下げたら、その引き下げをGATT加盟国にも適用させなければならないという約束をしたのです。これを「互恵主義政策」と言います。つまり、GATTの基本的な精神は、「自由で、多角的で、更に無差別な国際貿易を遂行すること」なのです。

日本は、戦争に負けたのですが、1955年にGATTへの加盟が認められ、世界貿易の仲間に入ることができました。そこで日本は、自由貿易の遂行を掲げて貿易量を増大させ、みるみるうちに日本の経済は成長し、いわゆる「一流国」になったのです。しかし、GATTでの各国間の貿易交渉は、たとえ貿易交渉が成立したとしても、交渉相手国が交渉条件を守らなければ貿易は拡大しないことになります。その時、交渉を守らなかった国に対してちゃんと約束を守らせる「強制力」がGATTには備わっていなかったのです。そこで、どれだけ各国間で貿易交渉して約束してもそれを守らなかったら、その交渉はなきに等しいことになります。そのような、「絵に書いた餅」のような交渉では世界の貿易量は拡大するはずはありません。そこでGATTにはない、より強力な強制力を備えた国際貿易体制の確立を急速に拡大する世界は求めるようになりました。それが「WTO」という機関です。

WTOへの変身

WTOとは、「World Trade Organization」と言われ、「世界貿易機構」と訳されています。その本部はスイスのジュネーブにあります。WTOは、94年に設立が合意されました。GATTは、ひと言で言えば、「お友達組織」のようなもので、GATTで決められた規則でも国によっては守らないこともありました。また、GATTでは、問題処理時に、紛争処理委員会などを作って長く時間を掛けて処理するという方法が採られていました。従って国際貿易上の問題が一向に処理されず、関係国は困り抜くというような状態に置かれたのです。更に、国際経済問題を解決する際に、GATT体制下の条約よりも、関係国は自国内の法律を優先するというようなこともあり、国際貿易問題が解決される度合いが極めて少ないという不便さも見られたのです。このような制度では、複雑に入り組んだ国際貿易問題は解決できないので、より強制力を持つWTOへと切り替わったのです。GATTが、「お友達体制」であったのに対しWTOでは、一度決定した約束は、必ず守り、もし守らない国が出た時は、紛争処理委員会にかけて問題を処理するという言わば強制力に基づいた組織へと変わったのです。

また、GATTとWTOとの大きな違いは、GATTにおいては、「物(財)の貿易」のみを対象としていましたが、WTOは、「サービスの取引」も対象としています。更にWTOは、知的所有権の取引、金融取引に関しても問題処理の対象としているのです。つまりWTOにおいては、世界におけるほぼ全貿易問題を処理の対象に考えているという特徴があります。

つまり、WTOは、世界は、「自由貿易によってより発展する」という基本的な哲学によって成り立っていると言えるのではないでしようか。

かつて世界の資本主義国を相手に堂々と渡り合っていた社会主義の国の雄だった中国はWTOには、2001年に加入しました。また、世界でいち早く社会主義を国是とし、社会主義こそ経済開発の最高の手段だと世界に向かって主張し続けてきたロシアも12年に加入しました。つまり、これらの国々は、WTOに加入することによって社会主義経済体制から資本主義経済体制へと大きく転換したのです。その二大強国に先駆けて、ソ連経済のいわば「衛星国」であった、モンゴルが、意外にも早い段階でこのWTOに加入したのです。それは1997年のことでした。これら一連の体制変革によって、かつて日本経済の後塵(こうじん)を拝していた、あの中国が、いまや日本のGDPの2.5倍の大きさを誇る世界でNo.2の経済大国になったのです。その結果を見ると、いかに「自由貿易」は自国の経済成長に有利に働くかという事実が分かると思います。

トランプ大統領の「自国第一主義」

トランプ大統領は、中国からの輸入品に25%の関税を掛けて自国財を中国からの財の攻撃から守る政策を採ると世界に向けて宣言をしました。世界の超大国が自国財を外国からの攻撃から守ろうとしているのです。すると、返す刀で中国もアメリカ製品に同じだけの関税を掛け、アメリカの財の輸入を排除しようとしています。つまり、超経済大国同士で、「関税の賦課競争」を始めたのです。これらの事実を目にすると、第2次大戦前夜の世界経済の状態が思い出されます。当然、私はその当時を知りませんが、経済学を学んでいる人びとにとっては、この時の世界情勢は誰でも学ぶ事実なのです。関税を掛けるにはそれ相当の事情を必要としています。

大阪での会議においても、G-20グループの首脳たちは、アメリカに対して一方的な保護貿易主義の立場から世界共通のルールに基づく自由貿易の立場に戻るように説得したのですが、トランプ大統領は、首脳国のリーダーの意見に耳を貸そうとしませんでした。それに呼応するように、中国もアメリカからの輸入財にアメリカと同程度の関税を掛けるぞ、と息巻いています。つまり、現在の世界経済における二大強国が関税の賦課競争を始めるようになったのです。このような状態が続けば、第2次大戦前夜の状態に戻ったとも言えそうです。私たちは、世界経済を牽引(けんいん)するリーダーたちの崇高な叡智(えいち)を引っ張り出し、それを元として世界経済の「再構築」を確立していかなければならないという重要な局面に立たされているのです。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

SHARE
ビジネスの最新記事
関連記事一覧
Google Adsense