オーストラリアの国技とも言われ、スポーツ・ファンを熱狂させるAFL(オーストラリアン・フットボール・リーグ)は、前身のVFL(ビクトリアン・フットボール・リーグ)も含めると今年129回目を迎える。そのAFLの総決算とも言えるファイナル・シリーズ(FS)と年間優勝を決めるグランド・ファイナル(GF)が9月に行われる。今年、優勝するのは果たしてどのチームか、注目のチームからGFの楽しみ方まで広く解説する。(文中敬称略、記事の情報は8月19日時点のもの)文=板屋雅博
ブリスベン・ライオンズが終盤で大逆転
今季のレギュラー・シーズン(RS)では古豪ジーロン・キャッツが序盤からトップを走っていたが、22ラウンドでブリスベン・ライオンズがジーロンとの直接対決を1点差で勝利して9連勝し、一気にトップを奪取した。2003年以来、16年ぶりのGF優勝を目指して意気盛んである。ジーロンも地力ではライオンズを上回ると見られ、なんとか1位または2位でFSを迎えたいところだ。
昨年の覇者ウェスト・コースト・イーグルスは、後半戦は1敗のみでジーロンに肉薄していたが、7連勝で猛追してきた一昨年の覇者リッチモンド・タイガースに22ラウンドで負けて、遂に追いつかれた。リッチモンドが最終ラウンドでライオンズに勝てば、大逆転でトップに立つ可能性がある。4チームによる大混戦で、最後まで目が離せない。
注目チームの戦力分析
ここからは、今シーズンを振り返ると共にFS出場が予想されるチームと戦力を分析する。
■ブリスベン・ライオンズ
QLD州ブリスベン
2001年から03年まで3年連続GF優勝を果たして全盛期を築いたライオンズだが、06年(RS6位、FSベスト4)以降は、全て下位8チームに沈んでいた。特に近年5年は、最下位付近の常連であった。今年も上旬までは五分五分の勝ち星であったが、後半に9連勝して、急上昇している。QLD州勢としても16年ぶりに回ってきたチャンスに掛けている。RS後半の勢いが続くかどうかが見どころだ。
■ジーロン・キャッツ
VIC州ジーロン
この10数年間で、GF優勝2回、RSでは2位4回、3位1回と安定して上位を占めている。設立は1859年とメルボルン・デーモンズに続き2番目に古い名門チームだ。キャプテンの闘将ジョエル・セルウッド、ミッドフィルダーで人気のゲリー・アブレット、トマホークの愛称でファンに親しまれている、大砲キッカーのトム・ホーキンス、パトリック・デンジャーフィールドなどの多数のスター選手を抱える。
■ウェスト・コースト・イーグルス
WA州パース
昨シーズン4回目の優勝を果たした。RSではリッチモンドに次いで2位であったが、FSではリッチモンドを撃破して、GFに進出したコリンウッドとの戦いになった。最後の5分間の攻防で79対75の僅差でイーグルスが劇的な勝利に輝いた。本拠地WA州パース・スタジアムの1試合の平均観客数は5万3,000人を超え、AFLで1番の観客数を誇る。
注目選手としては、ロング・キッカーとして知られるジョシュ・ケネディ、アンドリュー・ガフ、エリオット・イエオ。そして副キャプテンでミッドフィルダーのルーク・シュエイ、キャプテンのシャノン・ハーンのプレーも見逃せない。
■リッチモンド・タイガース
VIC州メルボルン・リッチモンド
1885年設立で優勝11回の古豪名門チーム。一昨年、38年ぶりの優勝を飾り、昨年もRSでは1位。FSでも本命と見られたが、準決勝で宿敵コリンウッドに58対97の大差で敗れた。ユニフォームは黄色と黒のタイガー・ジャージー。注目選手はキャプテンでミッドフィルダーのトレント・コチン、フォワードのダスティン・マーチン。また昨年、最多ゴールでコールマン賞に輝いたスター選手、ジャック・リーウォルドも在籍している。しかしジャックは、今シーズンは負傷が多く、FSに参戦できるかは微妙なところだ。
■コリンウッド・マグパイズ
VIC州メルボルン・コリンウッド
1892年創立の優勝回数15回を誇る古豪チーム。昨年は、GFでウェスト・コースト・イーグルスに悔しい競り負けで優勝を果たせなかった。コリンウッドがGFで勝てなかったのは27回目であり、AFLの中で圧倒的なGF負け数(2位のエッセンドンは14回)である。コリンウッドの呪いと言われ、アンチ・ファンの怨念を物語っていると伝えられる。サポーター会員数はAFLで1番を誇るが、アンチ・コリンウッド・ファンも圧倒的に多い。良くも悪くもコリンウッドはAFLに欠かせないチームである。昨年に続く上位進出にメルボルンも沸いている。
注目選手はキャプテンのスコット・ペンドルベリー、副キャプテンのスティール・サイドボトム、身長202センチの大型ラックマンのブローディー・グランディー。ちなみにオーナーのエディー・マグワイア、監督のネイサン・バックリーは、AFL以外でも著名人である。
■GWSジャイアンツ
NSW州シドニー
シドニー西部とキャンベラを本拠地にするジャイアンツは、2012年に参戦し今年8年目となる最も新しいチームだ。当初の4年間は最下位付近に低迷したが、直近3年は4位、4位、7位でFSに駒を進めるほどに上位常連となっており、古豪シドニー・スワンズを上回る活躍をしている。優勝も狙える一角にいる。注目の選手はセンターフォワードでキッカーのジェレミー・キャメロン、ミッドフィルダーのティム・タラントとジェイコブ・ホッパー。
■エッセンドン・バンバーズ
VIC州メルボルン・エッセンドン
優勝回数は16回とAFLで最多を誇る。サポーターも多いが、2000年以来優勝がなく薬物疑惑や幹部のゴタゴタなどがあり下位に低迷していた。今年は久しぶりのFS進出を目指している。
■メルボルン・デーモンズ
VIC州メルボルン
1858年設立のAFL最古のチーム。オーストラリアン・フットボールの発祥の伝説のチームだが、1964年以来は優勝がなく長く低迷していた。しかし昨年はRSで5位となり、2006年以来、13年ぶりにFSに進出、1回戦でジーロン・キャッツ、2回戦でホーソン・ホークスを撃破した。準決勝で敗れたが、根強いデーモンズ・ファンを沸かせた。
AFL基本情報
チームと試合数
1リーグ制18チームの構成で、VIC州から10チーム、QLD州、NSW州、SA州、WA州から各2チームが参加している。
レギュラー・シーズンは、3月下旬から8月末まで23ラウンドが戦われる。各チーム1回の不戦週があり、22試合を戦う。
ファイナル・シリーズ
RS上位8チームで争われるが、1位、2位は地元スタジアムが使えることや1試合少ないことなど圧倒的に有利な仕組みになっている。ファイナル進出は、監督や選手の業績となるだけに必死で戦っている。
GFデー
AFLのGFは、オーストラリアのスポーツ・イベント最高峰と言われ、チケットの入手は困難どころの話ではない。メルボルンっ子は、生まれるとすぐにメルボルン・クリケット・クラブに入会申請を出す。成人になるころに入会を許可されて、Melbourne Cricket Ground(MCG)でのAFL・GFチケットの優先権が得られる。約300万人が視聴し、5年連続でオーストラリアの全てのテレビ番組の中で最高の視聴率であった。GFは伝統的に9月の最終土曜日にMCGで行われる。昨年の入場者数は最大収容人数である10万22人であった。
AFLウィメンズ
女性のスポーツ界への進出は、世界的な流れだが、格闘技とも言えるオーストラリアン・フットボールでも女性リーグAFLウィメンズ(AFLW)が始まった。AFLW全チームは、AFLの各チームの下部組織である。2017年に8チームで始まったが、19年は10チームで行われた。
今年の参加チームはVIC州からはメルボルン、ウェスタン・ブルドッグス、ノースメルボルン、コリンウッド、カールトン、シーロン、SA州からアデレード、WA州からフリーマントル、QLD州はブリスベン、NSW州はGWSシドニー。
AFLが始まる前の真夏、2月と3月の7ラウンドがレギュラー・シーズンで、3月末の土曜日にGFが行われる。今年の第3回GFは、アデレードがカールトンを撃破して、2回目の優勝を果たした。観客数は、1試合で4,000人程度であり、入場料もほぼ無料である。選手の給料は、上部AFLクラブが負担している。自立するのはまだ数年は掛かると見られる。
AFLのルールとは
オージー・ルール
オーストラリアン・フットボールは、オージー・ルールとも呼ばれ独特のルールを持つ。競技場は楕円形で、オーバルと呼ばれ、サッカー場の2倍以上の広さである。ラグビー・ボールより少し小さな楕円形の革製ボールを使用する。プレーする選手数は、1チーム18人。試合開始は中央(センター・サークル)でアンパイヤ(審判)がボールを地面にたたき付ける(センター・バウンス)。高く跳ね上がったボールを、ラックマンと呼ばれる2メートルを超える長身の選手が高く飛び上がって奪い合う。大型長身のラックマンが高く飛ぶ空中戦がAFLの見所の1つだ。
ラックマンが奪取したボールを処理するのは、小柄なミッドフィルダーである。大柄なラックマンやゴール・キッカーに比べて派手さはないが、試合を左右する重要なポジションである。パスは、ハンド・パスと呼ばれボールの下端を手で叩いて放る。前方へもパスをすることができる。遠距離の場合はキック・パスも使う。ボールを持ったまま走る場合には15メートルに1回、バウンドさせる必要がある。
キックされたボールをノー・バウンドで取ると「マーク」となり、プレーヤーはフリー・キックか、試合続行かを選ぶことができる。
得点
AFLのグランドには、両サイドの中央に高いポールが2本、外側に低いポールが2本立っている。中央のポール間に蹴り込むと6点(ゴール)。外側に蹴り込むと1点(ビハインド)が得点される。ゴロでも良いが、必ず蹴り込むことが必要。
試合時間
ゲームは4クォーター(Q)制で行われる。各20分だがロス・タイムがあるので実質25分ほどになる。
メルボルン・クリケット・グラウンド(MCG)
収容人員10万人オーストラリア最大のスタジアムで世界でも10番目の規模を誇る。ちなみにオーストラリア2位は、シドニー・オリンピック・スタジアムで8万2,000人、日本の新国立競技場は8万5,000人を収容できる。AFLのGFは、毎年VIC州のMCGと決められているが、他州のチーム同士のGFが増えるとGFの他州開催の声が高まると危惧されている。
AFL発祥の歴史
1850年、メルボルンのトム・ウィルス(当時14歳)が英国の名門私立ラグビー高校へ留学。ラグビー高校では45年にラグビー・フットボール・ルールが作り出されていた。運動神経が良く、体格にも恵まれたウィルス少年は、クリケットとラグビーの優秀な選手として活躍した。メルボルンに帰国後、ラグビー高校の少年たちに負けないオーストラリア独自のフットボールを作り出したいと考えたウィルスは58年、メルボルンの新聞にオーストラリアン・ルール・フットボール(オージー・ルール)に関する文章を発表した。ラグビー誕生から13年目のことである。なお、サッカー・ルールができたのも50年代である。
ウィルスは、当時の熱狂的スポーツであるクリケットのオーストラリア代表のキャプテンであり、オージー・ルールは、すぐにメルボルンの高校などで受け入れられた。メルボルンきっての名門私立高校メルボルン・グラマーは、できたてのオージー・ルールをすぐに取り入れた。
記念すべき最初のオージー・ルールの試合は、58年8月7日にメルボルン・グラマー校対スコッチ高校の間で行われた。59年には、AFL最初のチームであるメルボルン・フットボール・クラブ(現デーモンズ)が結成された。その後、メルボルン・グラマーと並ぶ名門、ジーロン・グラマー高校(55年開校)でも負けじとオージー・ルールが取り入れられた。ジーロン・グラマーの卒業生などで59年に結成されたジーロンFC(現キャッツ)は、メルボルン・フットボール・クラブに次ぐ第2のクラブである。
AFL Grand Final 2019
日時:9月28日(土)2:30PM
会場:Melbourne Cricket Ground (MCG), Brunton Ave., Richmond VIC
Tel: (03)9657-8867
Web: www.afl.com.au
備考:MCGからメルボルン・パークへ抜ける歩道橋は現在閉鎖中
GFウィークの主な行事
◆ブロウンロー・メダル授賞式
9月23日(月)7PM、会場:クラウン・カジノ
最優秀選手かつ、フェア・プレーをした選手に贈られる賞。各試合で審判が記入した得点シートを授賞式の際に合計して発表する。AFLでは、全登録選手をゴール数、タックル数、ボール処理数、ラン距離など多くの指標を設けてポイントで評価して試合ごとに発表しているため、チーム成績とは別に、選手の位置付けが分かりやすい。
授賞式の様子は全国テレビ中継され、午後5時からクラウン・カジノ・アトリウムのエントランスに敷かれたブルー・カーペットで選手たちの入場が始まるが、選手よりもむしろモデル顔負けの美人な妻やガール・フレンドと、豪華な宝石とファッションに注目が集まる。
- 昨年の受賞者:トム・ミッチェル(ホーソン)
- 今年の筆者予想:ティム・ケリー(キャッツ)
◆コールマン賞
シーズンで最多ゴールを挙げた選手に授与される。過去10年の受賞者は以下の通り。
- ブレンダン・フェボラ( カールトン):2009年
- ジャック・リーウォルド(リッチモンド):10、12、18年
- ランス・フランクリン(シドニー):11、14、17年
- ジェリー・ラフヘッド(ホーソン):13年
- ジョシュ・ケネディ(WCイーグルス):15、16年
いずれも各チームとAFLを代表する選手たちである。今年は、ジェレミー・キャメロン(GWS)、トム・ホーキンス(キャッツ)、トム・リンチ(リッチモンド)などが競っている。
◆GF出場チーム・パレード
9月27日(金)11AM、会場:メルボルン市内
メルボルン市内オールド・トレジャリー・ビルからスプリング通りを南下して、ウェリントン・パレードを東へ進み、ヤラ・パークのMCGまでパレードが行われる。
両チームの選手がオープン・カーに乗り、通りの両側から約10万人の観衆が見守る。
MCG前の特設ステージでセレモニーが行われ、両チームのキャプテンがGF優勝カップを前に健闘を誓い合うところが見どころ。早めに特設ステージ前に陣取ることがセレモニーを見る上でのコツである。
◆AFLグランド・ファイナル
9月28日(土)2:30PM 会場:MCG
GFウィークと呼ばれ、イベントや祝日もあり、メルボルン全体が興奮に包まれる。ビジネス界や政界でも贔屓(ひいき)チームのネクタイをしている人も多く、ビジネスの場でも、まずはGFの話題から始まるという。GF当日は、フェデレーション・スクエアやMCG周りにも大型スクリーンが設置されて無料のパブリック・ビューイングが行われる。スポンサー各社がブースを作り、いろんな催しものを実施しているので、会場に入れなくても十分に楽しめる。
◆優勝チームお披露目
9月28日(土)6PM、会場:フェデレーション・スクエア
優勝チームの選手たちがファンにお披露目され、多くのファンでにぎわう。
◆優勝チーム・ファン祝賀会
9月28日(土)2:30PM 会場:MCG
優勝チームのホーム・グラウンドでは、ファンを巻き込んだ祝賀会も行われる。詳細な場所・時間は当日の新聞またはチームのサイトに掲載される。選手たちの話を聞けたり、選手と一緒に写真を撮ったりすることもできる貴重なチャンスなので、ぜひ足を運んでみよう。
文・写真=イタさん(板屋雅博)
日豪プレスのジャーナリスト、フォトグラファー、駐日代表
東京の神田神保町で叶屋不動産(http://kano-ya.biz)を経営